加谷珪一の金利教室 第12回
債券が償還されるまでの期間と利回りの関係を示したものを「イールドカーブ」と呼びますが、前回は、このグラフが示す形状が、市場の重要な手がかりとなることについて解説しました。今回は日銀が行っているイールドカーブ・コントロールについて説明します。
人為的にイールドカーブの形を変える
一般的にイールドカーブの形が変わるのは、景気の転換点と言われています。しかし、イールドカーブが変化するのは、それだけが理由とは限りません。市場に人為的な操作が行われれば、当然、カーブの形も変わってくることになります。今、行われている量的緩和策はまさにこれに該当します。
量的緩和策によるイールドカーブの変化について理解を深めるためには、日銀の量的緩和策の仕組みについて再整理する必要があるでしょう。
量的緩和策とは、中央銀行が積極的に国債などの資産を購入することで、マネーを大量供給し、市場にインフレ期待を発生させる政策です。
これまで日本では長く不景気が続き、金利が低い状態が続いてきました。名目上の金利はかなり低い水準まで下がってしまったので、ここからさらに金利を引き下げるには別の方法が必要となります。
金利には名目金利と実質金利の2種類があり、実質金利は、名目金利から物価の上昇分(期待インフレ率)を指し引いて求められます。皆がインフレになると考えると、期待インフレ率が上がり、実質的な金利を引き下げることが可能となります。実質的な金利がさらに下がれば、企業はお金を借りやすくなり、設備投資などが増えるというメカニズムです。
イールドカーブは再び右肩上がりに
日銀はこうした方針のもと、年間80兆円という猛烈なペースで国債の買い入れを行いました。これによって長期金利は低下しましたが、なかなかインフレ期待は発生せず、効果は限定的でした。そこで日銀が導入を決めたのがマイナス金利政策です。
これは、金融機関から預かっている当座預金の一部に対してマイナス金利を付与する(つまり手数料を徴収する)という施策です。
預金金利がマイナスになるということは、短期金利も否応なくマイナスになるということを意味しており、それにつられて長期金利も大きく下がることが期待されました。実際、マイナス金利導入後は、金利が10年物まですべてマイナスとなり、長期債の利回りも低下して、イールドカーブはほぼフラットになりました。
ただあまりにもカーブがフラットになってしまうと、今度は金融機関が利ざやを取れず、経営が苦しくなってしまいます。そこで日銀は、全体としては金利が低い状態でも、長期債の方がある程度、金利が高くなるようカーブの傾きを人為的にコントロールする方針を打ち出しました。これがイールドカーブ・コントロールです。
当初はあまり効果を発揮しませんでしたが、最近は米国の金利が上昇したおかげで長期金利が少しずつ上がってきました。その結果、イールドカーブは再び右肩上がりに変化しつつあります。
しかし今度は、金利が上がり過ぎるリスクも市場で意識されるようになってきました。市場に逆らって金利をコントールするというのは、そうたやすいことではないのです。