牛丼チェーンの吉野家の赤字転落が話題となっています。主な原因は人件費の高騰ですが、この事態は「いつかやってくる」というのが市場関係者の一致した見方でした。人件費や食材価格の高騰はどこかで価格に転嫁しなければなりません。日本の外食産業のビジネスモデルそのものが問われ始めています。
パートの人件費増加が利益を圧迫
吉野家などを運営する吉野家ホールディングスの2018年3~8月期期決算(中間決算)は8億5000万円の最終赤字となりました。売上高が増加していたにもかかわらず、最終損益が赤字に転落したのはコストの増加によって営業利益が減少したからです。
コスト増加には、原材料費の高騰という要因もありますが、もっとも大きいのは人件費です。
都市部においては、時給1000円でアルバイトやパートを確保することはもはや不可能であり、かなりの金額を上乗せする必要があります。同社のパート社員の人件費は364億円と、前年比で約19億円も増加しましたが、これが利益を圧迫しています。
同社では人件費の高騰に対応するため、店舗の4割をセルフサービスに切り替える方針を明らかにしていますが、外食チェーンのオペレーションは意外と複雑であり、完全な省力化は難しいというのが現実です。
今回、吉野家が赤字転落という事態になりましたが、低価格を武器にする外食チェーンはどこも似たような状況と考えてよいでしょう。すき家を運営するゼンショーホールディングスや松屋を運営する松屋フーズなど競合他社は、赤字にはなっていないものの、四半期決算は減益でした。
とうとうパラダイムシフトが始まった?
人手不足が深刻化している現状を考えると、どこかのタイミングで価格への転嫁を迫られるのはほぼ間違いないでしょう。
しかし外食チェーンの値上げはそう簡単ではありません。
運送会社や引っ越し会社などは、仮に値上げを行っても顧客の側には他に選択肢がないため、値上げを受け入れざるを得ません。しかし外食産業の場合には、多種多様なお店がありますから、ひとつの業態が値上げをすると、顧客は別の業態に流れてしまいます。
最近では、外食チェーンはコンビニなど小売店とも競争していますから、値上げには慎重にならざるを得ないというのが現実でしょう。
人件費の高騰は、景気がよいことが原因ではなく人手不足が原因ですから、今後もこの傾向が継続する可能性は高いでしょう。これまで外食産業は、コストの増加を価格に転嫁しないよう工夫してきましたが、それも限界に達しつつあります。
吉野家の赤字転落は、低価格を前提にしたビジネスモデルが成立しなくなりつつあることを示しています。人口減少を背景としたパラダイムシフトがいよいよ始まったのかもしれません。