加谷珪一の金利教室 第11回
長期金利と短期金利に差が生じるのは、市場にインフレ期待が存在することや、期間によってリスクが異なることが原因です。償還までの期間と利回りの関係を示したものを「イールドカーブ」と呼びますが、このグラフが示す形状は、市場を理解する上での重要な手がかりとなっています。
イールドカーブの形状は通常は右肩上がり
これまで解説してきたように、利回りは期間が長くなれば長くなるほど高くなる傾向があります。イールドカーブの横軸は期間を示していますから、イールドカーブの形状は通常、右肩上がりとなります。
量的緩和策が始まる前の2012年12月の段階では、1年物国債の利回りは0.098%、5年物は0.187%、10年物は0.794%、40年物は2.138%でした。金利水準そのものはかなり低いですが、イールドカーブの形状は右肩上がりなので正常な状態といってよいでしょう。
しかし、量的緩和策が進むにつれてイールドカーブの傾きは緩くなり、マイナス金利導入の2017年6月には傾きがかなりフラットな形状に変化していました。これは日銀によって意図的に作り出されたものですが、金利差が生じていないというのはかなり異常な状況といえます。
今回は日銀の量的緩和策によるものですが、イールドカーブがフラットになる、あるいは、長期金利と短期金利が逆転するという現象は歴史上、しばしば観察されます。こうした状況になるのは、景気の転換点であることが多いと言われています。
バブル崩壊直前には長短金利が逆転していた
例えば、バブル期における日本国債のイールドカーブを見てみると、バブル経済が崩壊する直前の1988年時点では、1年物の利回りは3.74%、10年物の利回りは4.61%でしたから、一応、右肩上がりの形状になっていました。
カーブの傾きは緩やかですが、80年代以前の日本では経済成長率が高くインフレが激しかったので、基本的に金利は高めに推移していました。また今ほど十分な資本蓄積もなく、企業は資金調達に苦労していましたから、短期金利も高く推移するのが当然だったのです。
しかし、バブル崩壊が近づくにつれてこうした状況にも変化が見られるようになってきました。バブル崩壊がほぼ確定的となった1990年12月には、1年物の利回りが7.1%まで上昇、10年物の金利である6.62%を上回り、長短逆転という状態に陥りました。
一般的に長短金利差が逆転するのは、市場が景気の先行きを不安している時です。足元では景気が過熱しており、金利が上がっているものの、将来的には景気のスローダウンが起こり、資金需要が減少すると思っているからこそ、長期金利が低下していきます。
ここで短期金利が急上昇した直接的な原因は、日銀がバブル退治のために相次いで公定歩合を引き上げたからですが、結局はこれが引き金となってバブル経済は完全に崩壊。日本は長いは不況の時代に入ります。
1995年に入って、ようやくイールドカーブ長短逆転という異常事態からは回復したが、今度は短期金利水準の異常な低下にずっと悩まされ続け、現在に至っています。