経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. スキル

目の付けどころがシャープでしょ!

加谷珪一の情報リテラシー基礎講座 第26回

 前回は、三洋電機とパナソニックを例に、企業を知るには歴史を知るのが早道という話をしました。液晶への過剰投資から経営危機となり、最終的に鴻海精密工業に買収されたシャープについても同じことが言えます。

シャープはなぜデバイスメーカーになったのか?

 シャープは、かつては一般的な電機メーカーでしたが、2000年前後から本格的な液晶事業への転換を図り、2000年代後半にはさらに液晶投資を加速させました。累計で数兆円の投資を行ったものの、液晶デバイスのコモディティ化が進み、価格が一気に下落。巨額の設備投資負担に耐えられなくなり、経営危機となったわけです。

 価格下落が激しい分野に何兆円もの投資を行うというのは、かなり危険な賭けですが、同社がなぜこのような、一種無謀ともいえる決断を行った理由については明確になっていません。

 メディアでは、当時社長だった片山氏と、彼の後ろ盾となっていた町田勝彦元社長による独断がこのような結果を招いたという分析が行われていました。確かにそうかもしれませんが、独断経営であることが、なぜ、液晶への集中投資につながったのかという部分は分からずじまいです。

 しかし、シャープという会社の成り立ちを考えると、この問題について理解するヒントを得られるかもしれません。

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シャープはどういう会社だったか?

 シャープはもともと早川電機という名称でした。

 創業は古く、1912年(大正元年)に遡ります。同社最初のヒット商品で、同社が飛躍するきっかけになった商品の名称は「早川式繰出鉛筆」というものですが、この英語名称は「シャープペンシル」、つまり、わたしたちがよく知るシャープペンシルは、実は戦前における同社のヒット商品だったのです。

 1970年代には、同社は電卓で一斉を風靡しています。当時、電卓は最先端のエレクトロニクス商品で、多くのメーカーが進出して激しい競争を繰り広げましたが、シャープはカシオと並んで、電卓戦争の勝者となりました。

 このほかシャープは、日本で初めてのターンテーブル式電子レンジを開発したり、現在のiPhoneとよく似たコンセプトの「ザウルス」を開発するなど、常に、時代の先を行く、少しクセのある商品を開発するのが得意なメーカーであることが分かります。
 同社は以前「目の付けどころがシャープでしょ」というキャッチコピーを採用していましたが、これは同社が持つ特徴をよく表しています。

 しかし、大型の設備投資を行い、液晶デバイスを製造するという現在のシャープは、正反対のビジネス・モデルです。シャープ経営陣にどのような思いがあったのかは分かりませんが、国策を担う巨大企業への憧れがあったのかもしれません。

 アイデアを売りにした小回りの効く企業は非常にすばらしいですが、日本のような社会では、世間一般から高い評価を受けるのは、いかにもな大企業です。国策を担う重厚長大企業になりたいという潜在的な願望が、大規模投資の遠因になっていたのだとすると、外資の傘下に入ってしまったのは何とも皮肉な結果です。

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