経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. スキル

企業を知るには社史を知るのが早道

加谷珪一の情報リテラシー基礎講座 第25回

 情報を分析する際に時間軸を意識できるようになると、いろいろなことが分かってきます。企業動向について知る場合にも同じことが言えます。

パナソニックと三洋はもともと同じ会社

 かつて有力な家電メーカーであった三洋電機が2015年に消滅しました。同社は2009年にパナソニックに買収され、2年後には完全子会社となっていました。

 買収された当時の三洋電機は、リチウムイオン電池や太陽電池部門で高いシェアを持っており、パナソニックの事業を補完し、シナジー効果を発揮できるとパナソニック側は考えていました。
 しかし、三洋電機の主力事業であるリチウムイオン電池の不振が続き、2012年には約8000億円もの巨額赤字を計上、翌年も大規模な赤字が続きました。

 パナソニックは三洋の再建をあきらめ、事業の売却や清算を進めることを決定したわけです。

 当時のマスメディアやネットには、企業買収の難しさについて言及する記事が多く見られました。確かにパナソニックは巨額を投じて三洋を買収したものの、再建に失敗しています。

 これは紛れもない事実なのですが、三洋電機はもともとパナソニックから分離した会社だということを知っている人はそれほど多くありません。この経緯を知っていれば、パナソニックによる三洋の買収と一連の事業整理について、もう少し違った印象を持つのではないかと思います。

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過去の経緯は、何十年にもわたって影響を与え続ける

 三洋電機創業者の井植歳男氏はパナソニック(当時の社名は松下電器産業)の元専務であり、パナソニック創業者である松下幸之助氏の義弟(松下幸之助の妻の弟)でした。つまり完全な身内だったわけです。

 なぜ井植氏が松下から飛び出したのか、その理由は現在でも明らかになっていません(何らかの不和があったともいわれています)。それはともかく、松下家と井植家の同族経営だったパナソニックは、三洋電機という形で井植家が分離し、ライバルとなったのですが、分離独立後65年にして元の会社に戻り、そして消滅したわけです。

 パナソニックによる三洋の巨額買収については、なぜ三洋を買うのかという疑問の声も上がっていましたが、もともと同じ会社だったことを考えれば、それほど不思議なことではありません。

 過去の経緯が企業経営に影響を及ぼしているケースはいくらでもあります。

 トヨタ自動車は旧三井銀行との関係が密接なことで有名ですが、その理由は、1950年のドッジライン不況の際、三井銀行がトヨタを支えたという経緯があるからです。トヨタは今でこそ圧倒的な財務体質を誇りますが、かつては倒産寸前まで追い込まれていたこともあったのです。

 当時、住友銀行はトヨタからの融資依頼をにべもなく拒否したのですが、トヨタはそのことを決して忘れてはいませんでした。その後、住友銀行がプリンス自動車(最終的には日産に吸収合併)の救済とトヨタとの取引再開を依頼しますが、トヨタ側はこれを一蹴しています。

 過去の経緯というのは、その後、長い期間にわたって企業に影響を与えるものです。歴史を知ることは、その企業を理解する、もっとも手っ取り早い方法のひとつといってよいでしょう。

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