経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. 投資

4~6月期GDP大幅下落の解釈

 内閣府が2014年8月13日に発表した4~6月期の国内総生産(GDP)は、物価変動の影響を除いた実質で前期比マイナス1.7%と大幅な下落となりました。これは年率換算にするとマイナス6.8%という大きな数字です。

 7~9月期のGDPは消費税10%増税を判断する重要な材料となります。わたしたちは、GDPの数字をよく理解しておく必要があるでしょう。

GDPの数字はあくまで前期比にすぎない
 GDPの数字を見る際に注意する必要があるのは、一般に使われる季節調整済みの数字はあくまで前期比であるという点です。今回は1.7%のマイナスだったのですが、これは1~3月期の数字に対してマイナス1.7%だったということです。

 ちなみに1~3月期は、昨年の10~12月期に対してプラス1.5%という良好な数字でした。言うまでもなく、この数字は消費税増税の駆け込み需要によるものですから、4~6月期の数字が大きく落ち込むことは、以前から予想されていたわけです。

 同じように考えれば、7~9月期の数字は今期の反動がありますから、プラス幅は大きくなることが考えられます。
 しかし、これはあくまで4~6月期のマイナスが大きかったゆえのプラスですから、この数字が大きいからといって、日本経済は好調だとは断言できないわけです。

 今の話はGDPの絶対値の数字を並べるとよく分かります。昨年の10~12月期のGDPは約527兆円、今年の1~3月期の数字は約535兆円、4~6月期の数字は525兆円です。
 仮に7~9月期の数字が2%の大幅プラスになったとしても、絶対値では535兆円となり、今年の1~3月期と同じになります。つまり、デコボコはあっても、日本経済は基本的に成長していないわけです。

 もし7~9月期の数字が大幅なプラスだったからという理由だけで消費税を10%に増税するということなると、それは単なる数字のマジックということになります。

 人は何年も前のことになるとすっかり忘れてしまうのですが、政府の行動をチェックするという観点に立った場合、それは致命傷となる可能性があります。その点で、時系列の理解が得意な米国人からは学ぶべき点は多いと考えられます。

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昨年を基準にする日本人と最も良かった時を基準にする米国人
 米国人は政治家を尊敬する一方、その仕事ぶりに対する評価は非常に厳しいものがあります。尊敬を集めるリーダーだからこそ、ちょっとやそっとの結果では許されないという考え方です。

 米国はリーマンショックで大きな落ち込みを経験しましたが、その後の回復過程において、常に話の中心となるのは、リーマンショック前を基準にした比較です。

 株価を話題にするときは、過去最高値であったリーマンショック前の1万4000ドルが常に基準になります。彼等にとっては、ピークであった1万4000ドルを回復して当然であり、そこに至らない場合にはマイナスという評価なのです。

 リーマンショックによる現実の影響を考えるとオバマ政権は本当によくやっていると思いますが、米国民はオバマ大統領の経済政策に満足していません。それは、ようやくリーマンショック前の株価に戻っただけであり、雇用などはまだ当時の状況まで復活してないからです。

 一方、日本人は政治家に対して非常に寛容です。というよりも、話題の基準が常に、前年比、前期比であり、その前は、どの程度の水準だったのかあまり考えないのです。

 80年代バブルの頃、日経平均は4万円に迫る勢いでしたが、その後、株価は7000円台まで落ちるという、想像を絶する下落となりました。当時を基準とするなら、現在の株価水準などお話にならないのですが、日本ではアベノミクスで株が上がったといって多くの人が喜んでいます。

 4万円はバブルだったのでそれを基準にするのは間違いだという人がいますが決してそうではありません。日本は主要国で唯一、20年間経済成長を実現しなかった国であり、他国はその間、数%成長を毎年実現し、経済の規模は1.5倍から2倍に拡大しているのです。

 日本も同じように経済成長を実現できていれば、今頃株価が4万円を超えていてもまったく不思議はありません。私たちは直近の数字にダマされないようにする必要があります。比較対象は昨年の数字ではなく、ピーク時の数字であるべきです。

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