経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. お金持ち

フローで富を得るのは効率が悪い

お金持ちを科学する 第11回

 前回まで説明してきた話は、基本的にフローというものがあって、その結果としてストックが形成されるという仕組みですから、ストックの源泉はフローということになります。

 多くの富(ストック)を確保するためには、多くのフローが必要であり、フローとストックは完全に連動していることになります。年収と資産を直接比較することはできなくても、相互に密接な関連性がありますから、一般には年収が多い人ほど、結果として蓄積できる資産も多くなると考えて問題ありません。

 資産額が小さいうちは問題ないのですが、資産規模が大きくなってくるとこの法則が成立しにくくなります。税金という大きなカベが立ちはだかってしまうからです。

法人の方が税制上のメリットが大きい

 日本は累進課税制度ですから、高額の所得のある人には高い税率が課せられてしまいます(過去記事「何と言ってもお金持ちになりやすいのは実業家」を参照してください)。年収が4000万円以上の場合には、名目上の所得税率は何と45%にもなり、控除など諸条件を考慮しても、高額所得者には35%程度の税金がかかってしまいます。

 仮に45%の税率だと仮定すると、4000万円という名目上のフローを得ることができても、実際にストックとして蓄積される金額は2200万円にしかなりません。稼いだ額の半分しか富として蓄積することはできないわけです。

 こうした高い所得税を回避するために、人によっては会社を設立し、法人として売上げを立てるというやり方を選択しています。法人にすることで個人が所得を得るよりも多くのメリットを享受することが可能となります。

 法人の場合には税率が個人とは異なります。

 法人税の税率は昭和の時代までは50%近くありましたから、個人の所得税とほとんど変わらない水準でした。しかし法人税は段階的に引き下げが実施されており、現在の法人実効税率は30%強となっています。
 安倍政権は法人税率の引き下げに積極的で、最終的には20%台まで低下する見込みです。単純な税率という点でも、個人が収入を得るよりも法人が有利ということがお分かりいただけるでしょう。

 また日本には中小企業向けの優遇税制や特定の業界向けの優遇税制などがあり、これをうまく活用すれば、今の時点でも20%台の税率に抑えることも不可能ではありません。

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いずれにしてもフローから富を作るのは難しい

 これに加えて法人の場合には経費を柔軟に活用できるという利点があります。
 税務署が必要と認める経費に限ってですが、利益から控除することができます。やり方によっては、納付する税額をさらに減らすことも可能です。例えば3年落ちの中古自動車であれば、取得費用は全額経費で落とせますから、その分、課税される利益を圧縮できるわけです。

 ただこうした措置にも限度があります。どうしてもクルマに乗る人であれば、経費にするメリットがありますが、クルマを必要としない人にとってはほとんど意味がありません。
 また交際費などは経費として処理できる金額に上限がありますから、稼ぎの額が大きくなってくると、交際費を経費化したとしても焼け石に水です。

 しかも、節税に血道を上げ、内部留保として蓄積しても、会社の所有者である個人はそのお金を好き勝手に使えるわけではありません。給与として自分に支払ってしまえば、そこには所得税や地方税が課税されてしまいます。結局のところ、フローからストックを得るにあたっては、税金によってフローが減らされてしまうという現実から逃れることはできないのです。

 したがって高額の稼ぎを蓄積して資産を構築することにはどうしても限界が生じてしまいます。では、何百億、何千億という資産を作る人は、このカベをどうやって乗り越えるのでしょうか。次回はこのあたりについて解説したいと思います。

お金持ちを科学する もくじ

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