米朝首脳会談が6月12日に、シンガポールで開催されることになりました。交渉が物別れに終わる可能性も残されていますが、これまでの経過を見ると米朝の本気度は高く、会談の結果次第では朝鮮半島の非核化が一気に進むかもしれません。
日米安保形骸化のリスクがさらに高まる
米朝の事前交渉では、朝鮮半島の即時非核化と段階的な非核化が最大のせめぎ合いになっているとされています。
トランプ米大統領の意を受けたポンペオ国務長官は5月9日に北朝鮮の平壌を訪問し、北朝鮮が完全な非核化を受け入れれば金正恩氏の体制を保障し、経済支援を実施すると伝えたそうです。一部報道では、非核化のプロセスについても米国側は譲歩の余地を示しているとも言われています。
交渉ですから最後の最後まで分かりませんが、少なくとも両国が、会談をまとめようという強い意志を持っていることは間違いありません。現時点において会談が成功する可能性はそれなりに高いと考えられます。
もし会談が成功すれば、歴史的な成果ですが、朝鮮半島の非核化が実現した場合、日本にとっては非常に厳しい時代の幕開けとなります。日本人はこのことについてよく理解しておく必要があるでしょう。
もっとも大きな影響は日米安保の形骸化です。朝鮮半島の非核化は、北朝鮮の非核化を意味しているわけではありません。あくまで朝鮮半島全体の非核化であり、そこには在韓米軍が含まれています。もし朝鮮半島の非核化プロセスが進めば、在韓米軍は徐々に撤退していくことになるでしょう。
当然のことながらこの動きは、在日米軍にとっても同じことが言えます。
中国はすでに米国にとって敵国ではなく、さらに北朝鮮の脅威が消えることになれば、米国が大規模な軍隊を東アジア地域に常駐させておく理由はなくなります。このことは日米安保の形骸化を意味しています。つまり米国と日本は「無条件の同盟国」ではなくなってしまうのです。
下手をすると各国すべてを敵に回す可能性も
この動きは、かなり早い段階で顕在化する可能性があります。もし米朝交渉が成功すれば、朝鮮半島の非核化と同時に、北朝鮮の国際社会復帰というプロセスも進むことになるでしょう。そのプロセスにおいて、北朝鮮が日本に対して戦後賠償の話を持ち出してくるのはほぼ確実です。
日本と韓国については1965年に締結された日韓基本条約ですべての問題が解決済みですが、この条約に北朝鮮は入っていません。南北が統一に向けて対話を開始し、北朝鮮が国際社会に復帰することになった場合、日本は韓国と同様の条約を北朝鮮とも結ぶ必要が出てきます(あるいはそれに代わる枠組みを構築する)。
日韓基本条約が締結された当時は、日本の立場は圧倒的に強く、日本は有利に交渉を進めることができました。また米ソ対立という大きな流れがありましたから、米国は日本に対して常に親和的でした。
ところが今の状況は全く異なります。米国は中国と敵対しておらず、日本の経済力は落ちる一方です。南北が和解すれば韓国も北朝鮮に融和的になるでしょう。しかも北朝鮮は経済支援の財源として日本のお金をアテにしています。
北朝鮮が歴史問題を持ち出して過大な要求を行った場合、各国は北朝鮮にではなく日本に対して譲歩を求めることは十分にあり得ます。
ここで日本が交渉を長引かせてしまうと、場合によっては各国すべてを敵に回してしまいます。一方、日本国内では、北朝鮮に対する反発が高まり、世論の収拾がつかなくなってしまうかもしれません。
友好的だと思っていた国がいつの間にか敵対的になり、気がつくと周囲の国すべてが敵になっていたというのは、まさに太平洋戦争前夜の状況ですが、下手をすると同じ状況になりかねません。
皮肉なことですが、朝鮮半島問題の解決は、日本にとって実は茨の道なのです。日本人には、この難局を乗り切る「胆力」が求められているのですが、感情ばかりが優先する今の日本人に果たしてその「胆力」はあるのでしょうか。
朝鮮半島問題については以下の過去記事も参考にしてください。
「結局はお金の問題?北朝鮮問題について私たちが知っておくべきこと(前編)」
「結局はお金の問題?北朝鮮問題について私たちが知っておくべきこと(後編)」