トランプ政権が北朝鮮との直接対話に乗り出す方針を明らかにしました。これまで「米朝戦争勃発か?」というキナ臭い報道もたくさんありましたから、何が何だかよく分からないという人も多いでしょう。
日本では朝鮮半島問題について、あまり冷静に議論することができません。
北朝鮮の隣国であることや、拉致という許容できない問題が存在していることなどが主な理由ですが、国際情勢に対する感性の鈍さもそれなりに影響している可能性があります。
すべてがそうではありませんが、安全保障上の問題の多くは、経済的な問題と密接に関係しています。このシビアな現実について、私たちはよく理解しておく必要があるでしょう。
日本人は独裁者というものを知らない
日本人は、本当の意味での独裁統治を経験したことがなく、独裁者という存在についてよく理解していません(歴史上、天皇が政治的実権を握っていた時代は少なく、武家政権の多くは合議で物事を決めていました。昭和の軍国主義時代においても本当の意味での独裁者は存在していませんでした)。
よく言えば利害調整型、悪く言えば玉虫色の政治ですから、独裁者が何を考え、何を欲しているのかピンとこないのです。
金正恩氏は、現代社会では珍しい正真正銘の独裁者といってよいでしょう。
金氏が、なぜあれほど躍起になって核開発を進めたり、ミサイルを発射するという挑発行為に出てくるのか、理解に苦しむ人も多いと思います。理解ができないと、人は過激に判断しがちです。金氏は頭がおかしくなっており、世界を核攻撃するという妄想に取り付かれていると解釈する人もいるようです。
しかし、こうした解釈の多くは当たっていません。
独裁者がもっとも重視するのはお金
狂気の沙汰に見える一連の行為についても、独裁者が何を望むのかを考えれば、意外とシンプルに理解できることがあります。
独裁者はたいていの場合、不当な手段によって得た莫大な資産を持っており、資産の維持管理は独裁体制の運営と密接に関係しています。独裁者が望むのは、自身の独裁体制の維持であり、それに必要とされる財産の確保です。
金氏もそうですが、独裁者は国内に相互監視システムや密告システムを構築しており、敵対的な人物は徹底的に粛正するなど、いわゆる恐怖政治を行っています。
しかし、こうした独裁体制は恐怖だけでは長続きしません。独裁者に媚び、協力してくる人物に対しては相応の利益を提供し、国民を分断させて秩序を維持するのです。
つまり、独裁者にとって暴力とお金は必要不可欠なツールであり、決して手放すことが出来ないものと考えてよいでしょう。
金政権は、独裁体制の維持と資金源の確保を強く望んでおり、一連の挑発行為は、それを米国をはじめとする国際社会に認めさせるための、危険な交渉ゲームなのです(後編に続く)。