経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. トピックス

副業をする人が過去最多というニュースを裏読みすると

 副業を行っている人が過去最多の744万人に達したというニュースが話題となっています。今年は副業元年といわれていますから、当然の結果と受け止めた人がほとんどでしょう。しかし、この情報をもう少し深く分析すると、さらにいろいろなことが分かってきます。

フリーランスで働く人は増えていない

 クラウドソーシング大手のランサーズが2018年4月4日発表したフリーランス実態調査2018によると、副業として取り組んでいる人は推定で744万人と過去最多となりました。一方、2018年における推定フリーランス人口は1119万人となっており、2017年との比較でほぼ横ばいにとどまっています。

 クラウドソーシングなどを活用したフリーランスという働き方は、一種のブームにもなっていましたが、現実にはあまり数が増えていないことが分かります。その一方で副業をする人は年々増加しています。

 フリーランスが増えていない最大の理由は人手不足でしょう。

 2018年2月時点の失業率は2.5%と空前の低さとなっており、日本は今、ほぼ完全雇用の状態にあります。子育て期間中の女性が職場を離れることで、当該年代の就業率が低下する、いわゆるM字カーブ問題もすでに解消された状態にあります(参考記事「M字カーブはあっという間に解消されたが・・・・」)。

 つまり日本においては、労働力として使える人材はほぼすべて雇用されてしまった状態にあるのです。そもそも人がいないわけですから、フリーランスも増加しません。

 こうした中で副業が増えているということは、企業の人手不足が深刻だからです。

 副業をする人が増えているというのは、供給側(労働者)から見れば、キャリアの複線化、収入アップというとう動機になりますが、需要の面(企業側)から見ると、人手不足対策ということになるわけです。

fukugyou8_s

副業の名を借りた長時間残業の延長にならないためには

 筆者は基本的に副業推進に賛成する立場ですが、少し気をつけなければいけないのは、日本企業のビジネスモデルが変らないまま副業だけが一人歩きすることです。

 日本企業では長時間残業するのが当たり前でしたが、働き方改革によってこれを見直そうという動きが広がっています。しかし、本当の意味で長時間残業を減らすには、企業の付加価値を高めなければいけません。儲からないビジネスを続けながら、時間だけを制限してしまうと、単純にアウトプットだけが減るという結果になってしまいます。

 最悪の場合、正社員には残業をさせられないので、副業している別の会社の社員に仕事を外注して、仕事をこなすということになってしまいます。
 そうなってくると、副業という名を借りて、長時間残業が継続するだけという皮肉な結果となりかねません。退社した正社員は、さらに別の会社で副業しているということになると、もはや喜劇です。

 こうした負のループに入り込まないためには、誰でもできる仕事を副業として請け負うのではなく、自分にしかできない仕事を見つけ出す必要があります。

 これは簡単な話ではありませんが、副業というのは小さくても一つの事業です。企業と同様、長い目で見た「戦略」が必要でしょう。企業の経営戦略について興味のある方は、連載記事「知っトク経営学」をご覧ください。

PAGE TOP