経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

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大炎上した金融庁の報告書。私たちが無関心だった影響は大きい

金融庁の報告書案より

金融庁の報告書案より

 「年金は減額される見通し」「老後には2000万円必要」との記述があったことから、金融庁の報告書が大炎上となりました。麻生金融担当相は、自身が報告書の作成を識者に依頼する立場でありながら、これを受け取らないという前代未聞の事態となっています。

年金減額という話はこれまで何度も出ていた

 年金が減額されるという話に多く人がショックを受けたわけですが、年金が将来、減額される可能性が高いという話は、厚労省が5年に1度実施している年金の財政検証でほぼ明らかとなっており、関係者の間では常識とされていました。
 しかしながら、政治家や政府関係者がこの話を積極的に国民に説明してこなかったのは事実ですし、マスメディアもあまりこの話題を取り上げませんでしたから、知らなかったという人も多かったのかもしれません。

 こうした良くない情報を国民に説明するのは政治家の責任ですし、政府の無策を指摘するのがマスメディアの本来の役割ですから、皆がしっかり仕事をしていなかったということになります。

 しかしながら、政府が悪い、マスコミが悪い、政争の具にする野党が悪い、と批判してもあまり意味はありません。日本は隣国とは異なり民主国家ですから(最近は怪しくなっていますが)、主権者はあくまでわたしたち国民であり、最終的に政策を決定するのはわたしたち自身です。

 その点からすると、今回の一件は、わたしたちの政策に対する消極的な態度(あるいは無関心)が引き起こした結果と見ることもできます。

 政策に関する知識がほとんどゼロという政治家もいますから、ひとくちに政治家といっても千差万別ですが、ある程度、有能な政治家であれば、年金財政の状況は理解していたはずです。では、なぜ彼等は有権者の前で、年金が減額されるという話をしないのでしょうか。話は簡単で、こうした悪い話をすると選挙で落ちてしまうからです。

 国民の側に、都合の悪いことは見たくないという受け身の意識があると、政治家は絶対にこうした話をしません。皆にとって心地の良い話ばかりが流布し、気がつくと大変な状況になっています。民主国家である以上、政治家の行動を決めるのはわたしたちなのです。

金融庁の報告書より

金融庁の報告書より

政治家の質を決めるのは主権者であるわたしたち自身

 これはマスメディアについても同じ事が言えます。マスメディアはビジネスですから、テレビであれば視聴率、新聞や雑誌であれば販売部数、ネットであればPV(ページビュー)を確保できないと事業を継続できません。しかしながら、年金が減額されるという話は、読者視聴者からの受けが悪く、記事を書いても読まれないというのが現実でした。

 筆者は過去、何度も年金財政の問題に関する記事を書いていますが、記事が読まれないというだけならまだマシです。年金減額の可能性について指摘すると「不安を煽っている」「政府が必死に取り組んでいることにケチをつけるのか」など、すさまじい批判を受けるのが常でした。こうした批判やクレームは政府から寄せられるのではありません。一般の読者から寄せられるのです。

 全員が全員ではないと思いますが、国民の側に「都合の悪いことは見たくない」「政府のやっていることは絶対に正しい」という意識があったことは間違いないと思います。残念ながらこうした状況では、事態がよくなることはありません。

 繰り返しますが、日本は民主国家ですから、政治家の質を決定するのはわたしたち自身です。国民の意識が低い国は、意識の低い政治家しか輩出しません。これは厳然たる事実であり、この事実をわたしたち主権者は肝に銘じておく必要があるでしょう。

 もっとも、今、筆者が書いたこのコラムに対しても「政治家を擁護するのか」「国民のせいにするのか」といった激しい批判が寄せられる可能性が高いですから、問題の解決は容易ではありません。

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