企業が定年退職した社員に支払う退職金が激減しています。政府は年金減額に対応するため企業に対して70歳までの雇用を求めています。これは事実上の生涯労働ですから、企業としては人件費総額の上昇を防ぐため、さらに退職金を減らしてく可能性が高いでしょう。
過去20年で退職金は1000万円以上も減少
厚生労働省の調査によると定年退職者(大卒、2017年)に企業が支払った退職金の平均額は1788万円でした。2012年は1941万円だったので、5年間で150万円以上減った計算です。ちなみに2007年の平均額は2871万円ですから、20年前と比較すると1000万円以上も減額されました。
退職金が減った最大の理由は、算定の基準となる年収が下がったからです。つまり日本人の賃金が下がったので、それに合せて退職金も減ったと考えればよいでしょう。
しかしながら、ここまでの下落はそれだけが理由ではありません。
業績がよくない企業は退職金の規程そのものを見直していますし、そうでない企業の中にも、退職時にまとまって退職金を支給する代わりに、若いうちから月々の給料に上乗せして支払う制度を設けるところも出てきています。企業は総人件費の拡大に頭を悩ませていますから、今後、退職金の見直しを行う企業は確実に増えてくるでしょう。
日本では大企業を中心に終身雇用制度となっており、原則として定年まで解雇されることはありません。定年までの雇用と退職金が約束されていたことで、滅私奉公的な働き方も受忍されてきたわけですが、皮肉なことに、企業が退職金を減らしている最大の理由は終身雇用制度を維持するためです。
退職金は事実上、消滅する?
政府は年金財政の悪化に対応するため、企業に対して70歳まで社員を雇用するよう求めています。公的年金だけでは老後の生活をカバーできないので、事実上の生涯労働制にすることで対処しようとしているわけです。
定年が大幅に延長されれば、企業の総人件費が一気に増大しますから、企業はさらに賃金を下げる可能性が高いですが、それだけでは足りず、退職金の減額も同時に進めていると考えられます。
あまり考えたくないことだと思いますが、10年後には退職金制度は消滅している可能性が高いでしょう。企業が一生涯、社員を雇用するということになると、退職金には実質的な意味がなくなるというのがその理由です。
業績が悪化した企業を中心に、早期退職する社員には退職金を上乗せするところもありますが、これからの退職金は限りなく早期退職における割増退職金に近い存在になっていくと考えられます。