2019年1~3月期のGDP(国内総生産)は予想外の良好な結果でした。しかし数字の中身を見ると、これまでと状況が大きく変わったわけではありません。GDPの数字が大幅に上昇したのは、輸入が減ったからですが、なぜ輸入が減るとGDPは増えるのでしょうか。また輸入の減少は何を意味しているのでしょうか。
年率換算で2.1%の成長
内閣府が2019年5月20日に発表したGDP速報値は、物価の影響を除いた実質でプラス0.5%(年率換算プラス2.1%)と、かなり良好な結果でした。GDPを押し上げた最大の要因は輸入の減少なのですが、この話についてはピンと来なかった人が多かったようです。
GDPは国内で生産された付加価値を合計したものと説明されることが多いのですが、これはGDPの生産面における定義です。GDPには三面等価の原則というものがあり、生産面に加え、支出面、分配面という別の視点もあります。支出面は、誰がいくかのお金を使ったのかを示したものですが、通常、ニュースなどで耳にするGDPは支出面と思って差し支えありません。
支出面におけるGDPの主な項目としては、個人消費、設備投資、政府支出、輸出の4つがあります。輸出は需要(つまりお金を使う人)が海外にいるということなので、他の項目とは別立てになっています。輸出が増えれば、国内の生産も増えますから、GDPにはプラスとなります。
しかしここで注意しなければならないのは輸入の存在です。
一般的に輸出だけをする国というのはありませんし、日本は製造業の国ですから、製品を輸出するためには、原材料などを輸入しなければなりません。したがって輸出と輸入はセットになっています。
輸入減少が意味すること
先ほどのGDP項目における輸出は、厳密には輸出から輸入を差し引いた「純輸出」のことを指しています。もし輸出が変わらず、輸入だけが減った場合には、差し引きの純輸出は増加しますから、それに伴ってGDPも増加します。これが今回、GDPが大きく増えた理由です。
ではなぜ、このタイミングで輸入が大きく減ったのでしょうか。筆者は、企業が生産見通しを引き下げた影響が大きいと考えています。
企業は、最初に原材料などを輸入して、加工や組立てなどを行い、最終製品を輸出しますから、輸入と輸出にはタイムラグが生じます。米国と中国が貿易戦争を行っていることから、中国向けの輸出が激減しており、メーカーを中心に多くの企業が生産目標を引き下げました。期末ということもあり、各企業は原材料の輸入を手控えた可能性があります。
つまり今回の輸入減少によるGDPの増大は、もしかすると今後の輸出の低迷、つまり景気の悪化を示唆している可能性があります。日本の輸出は米国と中国に大きく依存していますから、今後、輸出が増えるかどうかは、米中貿易交渉の結果次第ということになるでしょう。
経済やGDPについてもう少し詳しく知りたい方は「加谷珪一の超カンタン経済学」を参照してください。