経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. 社会

10年後、駅前の光景が激変する理由

 駅前など繁華街の不動産に地殻変動が発生しています。これまで都市部の交差点の角や駅前に建つビルの1階には、高い家賃であっても金融機関や外食産業などが、先を争って入居していました。しかしビジネスのネット化が本格的に進んできたことで、こうした常識も過去の話となりつつあります。

金融機関が店舗の統廃合に乗り出す

 先日、証券最大手の野村證券が、国内店舗を2割削減する方針を明らかにしました。ネット社会の進展に加え、株式の回転売買からコンサルティング営業への転換が進んでおり、目立つように路面店を構えている必要性が薄れてきたからです。銀行はすでに一足早く、店舗の統廃合を進めていますが、こちらもビジネスのネット化が要因です。

 これまで金融機関は、ビルのオーナーにとって最高の顧客でした。交差点の角や駅前の一等地は、どれだけ高い賃料でも金融機関が先を争ってテナントに入ってくれたからです。

 ネットが登場した初期の頃は、ネットとリアル店舗は棲み分けが出来ており、当初イメージされたほどにはリアル店舗がネットに脅かされることはありませんでした。しかしスマホの普及が状況を大きく変えつつあります。

 ほとんどの人が四六時中、ネットに接続されることになり、あらゆるビジネスが急速にネットにシフトするようになりました。この流れは金融機関も同じで、いよいよ各社は本格的な店舗の統廃合に乗り出したわけです。

 日常的な取引はネットで済ませ、コンサルティングなどはじっくり対面でということになると、駅前の繁華街に路面店を構えている必然性は薄くなります。不特定多数の顧客が来店するわけではありませんから、オフィスビルの1フロアに店舗があってもまったく問題ありません。

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米国ではレストランが急激な勢いで消滅

 この流れは、現地に行かなければサービスを受けられないはずの外食産業にも及んでいます。その理由は、ネットを使ったデリバリーサービスが急拡大しているからです。

 日本でも都市部では、ウーバーイーツをはじめとするネットのデリバリーサービスを利用する人が増えており、多くのファストフード・チェーンがデリバリーに参加するようになっています。一足先に一連のサービスが普及した米国では凄まじい勢いで外食のデリバリー化が進行中です。

 オフィス内の業務もネットがベースとなり、仕事が個人単位になったこともあって、ランチを食べに出かける人が激減。多くのレストランが閉店に追い込まれています。
 これまで、繁華街の道路に面する不動産の賃料は青天井でしたが、これが総崩れになるという、従来の常識では考えられない事態となっています。この動きは、確実に日本にも波及してくるでしょう。

 10年後、街中の光景は今よりもずっと落ち着いて地味な雰囲気になっているかもしれません。駅前に新築マンションが建ったり、店舗向けの物件を住居向けにリニューアルするといったケースも増えてくるでしょう。不動産ビジネスの常識は大きく変わることになりそうです。

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