お金持ちを科学する 第36回
1億円以上の純金融資産を保有する「富裕層」が年々増加しています。労働者の賃金はあまり上昇していませんから、資産格差が拡大しているように見えますが、果たしてそうなのでしょうか。また、最近の富裕層拡大にはどのようなメカニズムが働いているのでしょうか。
富裕層も増えているが、マス層の資産も増えている
野村総合研究所の調査によると、2017年時点における日本の富裕層数は127万世帯で、富裕層世帯が資産総額は299兆円とのことです。
富裕層の世帯は2013年には100.7万世帯でしたが、2017年には26万世帯増えて126.7万世帯となり、金融資産も241兆円から299兆円に拡大しています。この数字は筆者が独自に行っている様々な分析結果とも符合しますから、客観性が高いといってよいでしょう。
これだけ見ると格差が拡大しているように思えますが、必ずしもそうとは言い切れません。富裕層だけでなく、いわゆるマス層の資産も増えているからです。
金融資産3000万円以下の層は、同じ期間で4182.7万世帯から20.4万世帯増えて4203.1万世帯となり、資産額も539兆円から673兆円に拡大しています。
日本ではライフスタイルの多様化によって単身者が増えており、それに伴って総世帯数も増加していますから、世帯数そのものが増えるのは当然のことです。ただ、1世帯あたりの資産額で見ても、マス層の金額は増えていますから、多くの人が資産を拡大したのは事実のようです。
格差が生じる最大の理由は運用の有無
各層の資産額が増えた最大の理由は、アベノミクスによる株高と考えられます。
量的緩和策がスタートして以降、株価は2倍になりました。富裕層は資産運用に積極的なので、株価が上がれば資産額も増えますが、マス層でも投資信託などを保有している世帯がありますから、やはり株高の影響を受けることになります。
マス層の場合、金融資産の多くは現預金ですが、ある程度の収入がある世帯は、将来への対処から貯蓄に励んでいるので、貯金の増加も資産額の増加に寄与しているでしょう。2013年から2017年にかけて家計の預貯金は1割ほど増えています。
いずれにせよ、富裕層が増加した最大の原因は株高ですから、格差が生じるとすればこの部分になる可能性が高いでしょう。つまり富裕層とマス層で格差が生じているのではなく、運用を積極的に行っている層とそうでない層との間で格差が生じているわけです(日本では相対的貧困率が先進国トップクラスという悲惨な状況であり、低所得層にお金が回っていないという現状については是正の必要があると筆者は考えています。しかしながら、こうした貧困問題については、本コラムとはテーマが異なるのでここでは触れません)。
もし給料を貯金することだけが資産形成の原資という場合には、このような時代においては不利になります。むやみに投資を推奨するつもりはありませんが、毎月の給料を銀行に預けているだけでは、実質的にマイナスになってしまうという現実については、よく理解しておいた方がよいでしょう。