前回は、働き方改革に関連して、組織改革を行わず、残業時間の一律削減といった安易な措置に踏み切るところが増えているという話をしました。今回は、その具体的な弊害について考えてみたいと思います。
年収大幅減という人が続出する可能性も
もし業務プロセスの見直しや余剰人員の整理といった措置を実施しないまま、単に残業時間だけの削減を行った場合、計算上、生産性はまったく改善しません。
生産性は企業が生み出した付加価値(売上総利益)を労働者数(もしくは総労働時間)で割って求められます。業務プロセスを変えず、労働時間だけを減らせば、分母も減りますが、分子(生産)も減り、生産性は同じ数値のままとなるでしょう。
その影響はまず従業員に及んできます。もっとも顕著なのは年収の大幅減少でしょう。
これまで長時間の残業込みで何とか生活できるレベルの年収を維持していた人も多いと思いますが、残業が一律カットになると、その分だけストレートに年収が下がります。経済全体で見た場合、消費への影響も無視できないと考えられます。
生産性の向上で労働時間が短くなった場合、会社には利益が生じるので、これを社員の昇給に割り当てることができますが、生産性が変わらない場合、昇給の原資は生まれず、年収減をカバーする手立てはありません。
次に考えられるのが、下請けや外注先の負担増です。
下請けへの押しつけや外注化の進展で全体の生産性が低下?
働き方改革関連法は、施行時期について大企業と中小企業に1年間のタイムラグがあります。大企業の一部には、社員の残業時間を減らすため、面倒な仕事を下請けに押しつけたり、業務をアウトソースする目的で、新しく外注先と契約する動きが見られます。
少なくとも1年間は中小企業には法律が適用されませんから、4月以降は中小企業の労働環境がさらに悪化する可能性が高いでしょう。経済産業省が行ったヒアリングでは、大手IT企業による働き方改革のシワ寄せで、下請けの中小IT企業の労働時間が増大しているケースがすでに報告されています。
業務の一部を外注した場合にはその分、代金は支払われますが、発注する大企業全体で見ると人件費は増えていますから、生産性は維持されるどころか、逆に下がっています。これでは昇給の原資を捻出することはできませんし、こうした状況が続けば、会社は減益となる可能性もあります。
繰り返しになりますが、働き方改革の真の目的は単純な残業時間の削減ではなく、生産性の向上による残業時間の削減です。
そのためには、業務内容や人員配置を抜本的に見直す必要があり、企業には相当な努力が求められます。これを実現できなければ、労働者の実質賃金は低下するばかりとなってしまうでしょう。