日本の株式市場が正念場を迎えています。日経平均は8月8日、前日の終値から450円以上も下落し、市場ではちょっとしたショックとなりました。
しかし、その後株価は急回復を見せ、1万5500円を突破しました。今回、株価急落を回避できたのは、日銀の積極的な買い支えがあったからです。
日銀によるETFの積極買い
日経平均は8日の下落後、9連騰となったのですが、一連の株価上昇の原動力となったのは、日銀によるETF(上場投資信託)の買いだといわれています。
日銀は株価が急落し始めた8月6日から、ETFの買い入れを開始。10日以上にわたって、一日、約100億円のペースでETFを買い続けました。
日銀が本格的にETFを購入していることを察知した一般投資家が、これに追随(いわゆる提灯買い)したことで株価が急騰し、1万5500円台の回復となったわけです。
ETFは指数を買う商品ですから、ETFが上昇すると、それに伴って現物株も動き始めます。日銀にしてみれば、それほど大量の資金を導入しなくても、ある程度市場を動かすことができるので、日銀はETFの購入をたびたび行っています。
もっとも、日銀がETFを購入すること自体は、昨年4月に始まった量的緩和策の一環であり、特に目新しいことではありません。日銀は年間1兆円のペースでETFの購入を続けている状況です。
ただ今回は、株価急落直後に、日銀が集中的に買いを入れたことで市場の注目を集めることになりました。
今回の日銀の動きについては、黒田総裁の強い意向が働いていると見る市場関係者が多くなっています。というのも、アベノミクスは現在、正念場に差し掛かっており、株価の動向が非常に重要となっているからです。
黒田総裁が消費税10%に向けて援護射撃?
前回のコラムでは、消費増税後、家計の消費が落ち込んでいる状況について解説しました。今年の春闘では賃上げが実現しましたが、賃上げは大企業が中心で、多くの中小企業はまだ十分な賃上げをできる状況にはありません。
また大企業の賃上げも、物価上昇や消費税の増税を差し引くと、実質的にマイナスになっているのが現実です。
安倍政権発足後、日銀の量的緩和策の実施によって、株高と物価上昇が実現しました。それ自体は、狙い通りだったわけですが、その中身は、自律的な景気回復に伴うものというよりは、円安による輸入価格上昇が主な要因でした。
現在では、円安が一服してしまっているため、株価も伸び悩んだ状況にあります。
これまでの物価上昇の動きが、自律的な経済成長につなげていくことができるのか、アベノミクスは今、正念場を迎えているわけです。
消費増税の影響が長引き、景気が腰折れしてしまうようなことになると、もっとも困るのは財務省です。
財務省としては、財政再建最優先という立場から、消費税10%増税を何としても実現したいと考えています。ここで景気の腰折れに伴う政治判断で10%増税が先送りされる事態だけは何としても避けたいわけです。
財務省出身者は、この点だけについては、どんな立場になっていても、価値観は同じといわれています。それは、黒田総裁も例外ではありません。
株価の急落でアベノミクスに疑問符が付き、消費税10%増税が先送りされる事態だけは何としても避けたいと考えているはずです。異例ともいえる日銀による株の買い支えにはこのような意図があります。
政府与党内部では、消費増税の影響が予想外に大きかったことから、10%増税の先送り論がくすぶっています。最終決断までには、まだ時間がありますから、当面は、増税と先送りをめぐる駆け引きが続きそうです。