経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

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コンテンツのパクりをめぐる議論から見えてくるもの

 ブロガーのイケダハヤト氏が書いた「コンテンツを「パクる」のは、なぜいけないの?」という文章をめぐって、ネットではちょっとした炎上となっているようです。

 イケダ氏は、挑発的な文章をブログに載せ、これに感情的に反発する人からのアクセスを集めるというのがひとつのスタイルになっている人ですから、今回の炎上も、いつもの出来事といってよいでしょう。
 実際に、イケダ氏とそれに反発する人のバトルを見ていても、正直、あまり得るものはありません。

 ただ、日本は著作権に関する概念が論理的ではなく、今回のような騒動が発生するのも、こうした状況が背景にあると考えられます。その意味では「パクり」をめぐる感情的な議論は、現象としては非常に興味深いものといえます。

著作権とは本来、財産に関する権利
 基本的に今回の騒動は、イケダ氏が「必ずしもコピーが悪とは限らない」主張し、それに対してケシカランという人が怒りを表明しているという図式です。

 日本では、著作物のコピーは、刑法犯罪的に、それ自体がいけないことという認識が強くなっています。これは、日本の行政がそのような方向性に誘導したという側面があり、半ば意図的なものです(詳しくは述べませんが、それには理由があります)。

 しかし、著作物のコピーが絶対的に悪いことなのかというと、それは非常に微妙なところです。

 本来、著作権は財産に関する権利であり、著作物のコピー行為そのものを刑罰として扱うという概念ではありません。つまり、人の著作物を勝手にコピーして、それを商業利用した場合には、著作権者の利益を侵害しているので、対価を支払うべき、という考え方です。

 もちろん著作権はそれだけではありません。著作物が勝手に利用され、本人の意図とは異なる形で使われたとなると、著作者の人格を侵害する可能性があります。これは法律の世界では著作者人格権と呼ばれており、こちらは商業利用かどうかは問われません。

 著作権を財産に関する権利としてとらえるなら、コピーそのものの善悪はあまり関係ないということになります。あくまでコピーされた側が、金銭的損失をどう認識するかにかかっています。

 一方、人格権的なニュアンスが強いと考えるのであれば、ある程度はモラル的な発想も含まれてくることになりますから、犯罪的な要素が加わってきます。ただ、いずれにしても、重要なのはコピーされた本人がどう考えるのかという点です。

 このあたりは、英米法と大陸法で異なっており、完全な答があるわけではありません。ただ、著作物のコピーが問答無用で犯罪だという考え方は、イケダ氏が指摘する通り、思考停止になっている可能性がありますから注意が必要でしょう。

chosakuken

著作権がモラルの問題になるのも経済的な理由
 以前、中部大学の武田邦彦教授が、小保方晴子さんの論文コピペ問題に関して「コピペは何の問題もない」と発言して大バッシングを受けていました。武田氏は、もともと過激な発言で知られる人ですから、コピペ問題についても、あえて挑発的な言い方をした可能性があります。

 しかし、商業的価値を生まないものには、原則として著作権の問題は発生しないという武田氏の主張は、英米法的な解釈に立てば一理あるということになります。

 ちなみに筆者は著作物から収入の一部を得ている人間ですから、当然、人一倍、著作権に対する関心を強く持っています。その上での主張ですが、やはり著作権は、商業的価値の問題であり、コピーそのものが犯罪なのかというところとはあまり関係ないというのが正直なところです。

 というのも、ある程度、著作物はコピーされた方が、最終的に著作者が得られる利益が大きいというのが現実だからです。コピーされるということはニーズが存在するということであり、結果的に対価を払って、それを購入する人も増えてきます。

 ただ同じコンテンツについて、お金を払った人と、一部とはいえタダで見た人がいるのは、非常に不公平ですし、タダでコンテンツを売った人からは、徹底的にその分の利益を回収する必要があります。
 また著作者の人格権が強く確立している方が経済的に得をするという人(著作者以外で)が一部に存在しています。

 こうした要素が複合的作用し、著作権に関する善悪のイメージが出来上がっていると考えられます。

 ネットの世界では、著作物を勝手に利用して利益を上げる「盗人」が横行しているのは事実です。キュレーションなどと名前を綺麗にしても、基本的な構図は同じです。著作者は、金銭的な機会損失が発生しているのであれば、徹底的に戦うべきでしょう。
 
 ただコピーそのものが絶対的に悪なのかという、そんなことはないというのが、現実的な解釈といえます。

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