経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. 経済

日本がアルゼンチンから学ぶことは多い 前編

 アルゼンチンが通貨ペソの急落を受けてIMF(国際通貨基金)に支援を要請しました。アルゼンチンはかつて先進国として栄えた国ですが、その後没落し、何度もデフォルト(債務不履行)を起こすなど経済運営がうまくいっていません。

 あまり知られていませんが、経済学の世界では、アルゼンチンと日本は非常に注目されています。その理由は、アルゼンチンは先進国から転落してしまった数少ない国であり、日本もそうなる可能性が高いと認識されているからです。

母をたずねて三千里はアルゼンチンに出稼ぎに行く話

 現在、先進国として豊かな経済を謳歌している国は、ほとんどが19世紀の段階までに工業化に成功しており、その後は、ずっと先進国として繁栄を続けています。日本は最後の最後に駆け込んだ形ですが、初期に先進国になることができた国のひとつであることは間違いありません。

 経済の世界は先行者利益が大きく、初期段階で豊かになれた国は、その生活水準を落とすことはないと考えられてきました。実際、ほとんどの国がそうなのですが、数少ない例外が存在します。それがアルゼンチンです。

 アルゼンチンは第二次大戦前までは豊かな先進国でした。第一次大戦直前におけるアルゼンチンの1人当たりGDP(厳密にはGNP)は、イタリアやドイツよりも高く、英国やフランスに匹敵する水準でした。同国の首都であるブエノスアイレスは、南米のパリと謳われた美しい街並みで有名です。

 皆さんは、かつてテレビ・アニメで人気を博した「母をたずねて三千里」という話をご存じでしょうか。主人公であるイタリアの少年マルコが、アルゼンチンに出稼ぎに行った母を探しに行く物語です。つまりイタリア人が出稼ぎにいくほどアルゼンチンは豊かだったわけです。

 しかし同国は、戦後の工業化に乗り遅れ、徐々に経済水準が低下。やがて何度もデフォルトやハイパーインフレを繰り返すようになり、現在では没落国家の象徴と言われるようになってしまいました。

 一旦、先進国になった国はいろいろと問題は抱えていても、その豊かさを維持できるとされていますが、アルゼンチンはそうではありませんでした。なぜそうなってしまったのか、経済の専門家は興味をそそられるわけです。

アルゼンチンと日本の共通点

 アルゼンチンと並んで、同じテーマで注目を集めつつあるのが日本です。アルゼンチンと比較すれば日本はまだまだ豊かですが、近い将来、日本が先進主要国から脱落するのではないかと見る専門家は少なくありません。

 感性の鋭い方でしたら、日々の生活実感においても、ここ10年の間に日本社会が相当貧しくなってしまったことを感じていると思います。

 もし日本が先進国から脱落するような状況となった場合、第2のアルゼンチンということになり、各国の専門家の注目を集めることになるでしょう。わたしたちはそうならないようにしなければいけません。

 幸い、日本には戦後の高度成長で得た分厚い資本蓄積がありますし、アルゼンチンと比較すればまだまだ豊かです。政府の借金も膨大ですが、今のところ何とか国内の資金でカバーできている状況です。日本は先進国のままでいられるのか、その座から転落するのかのまさに瀬戸際に位置していると思ってよいでしょう。

 このコラムでは3回にわたって、なぜアルゼンチンが再度経済危機を起こしたのかを分析し、日本はどうすべきなのかについて考えてみたいと思います(中編に続く)。

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