経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

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大胆に推測!スルガ銀行が少々危ない物件にも積極的に融資してきた理由とは?

 シェアハウス向け融資をめぐる不正融資問題が取り沙汰されるスルガ銀行が、調査のため第三者委員会を設置する方針を明らかにしました。
 銀行は融資が仕事ですから、収益が上がらない物件に融資してしまえば、銀行が損失を抱えてしまいます。行員が不正にどこまで関与していたのかは不明ですが、なぜスルガ銀行は自分達が損をするような融資案件に手を染めてしまったのでしょうか。

スルガ銀行の業績は突出していた

 スルガ銀行は静岡県沼津市に拠点を置く地方銀行ですが、突出した好業績で知られてきました。2017年3月期における業務純益は636億円、総資産は4兆4658億円で、総資産に対する業務純益の比率(総資産業務純益率)は1.42%に達しています。地方銀行の平均値は0.3%、2位の地銀が0.59%だったことを考えると、スルガ銀行の収益力はまさにケタ違いのレベルです。

 スルガ銀行がこうした高収益を実現できたのは、法人向けの融資に見切りを付け、住宅ローンやアパート・ローンなど金利の高い個人向け融資に特化したことです。同時にネット・バンキング化を進め、静岡以外での融資を積極的に拡大していきました。
 この新しい経営スタイルは高く評価され、金融庁はスルガ銀行をモデルに経営改革を進めるよう、各地銀に指導していたほどです。

 現在、日本は歴史的な低金利となっており、銀行は融資をしても利ざやが取れず悩んでいます。銀行どうしの競争もある中、なぜスルガ銀行だけが高い利子の融資を実現できたのでしょうか。その理由は、審査の迅速化です。

 近年、銀行から融資を受け、アパートを一棟丸ごと買って賃貸に回すという、いわゆる「大家さんビジネス」がブームとなっています。こうした一棟モノの不動産投資を行っている個人投資家の中で、スルガ銀行のアパートローンを知らない人はほとんどいないでしょう。そのくらい同行のアパートローンは有名な存在なのです。

 他行の場合、建物の耐用年数など融資条件について細かくチェックするなど審査が面倒です。基準も杓子定規で、まだ使うことができる建物であっても、書類上の耐用年数で一律に融資不可と判断されてしまうこともよくあります。

 ところがスルガ銀行の場合には、審査が柔軟でスピードが速く、すぐに融資の可否が判断されます。不動産の取得は早い者勝ちですから、不動産投資家にとっては金利が多少高くても同行のローンを利用するメリットがあるわけです。

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公務員や上場企業の社員は世間体を気にして自己破産しない

 ではスルガ銀行は他行よりも柔軟に審査をして大丈夫なのでしょうか。実はここにスルガ銀行が好業績を実現してきた秘密があります。

 同行の審査の実態は公表されていませんから、あくまで筆者の推定ですが、同行が重視しているのは「物件」そのものではなく、借りる人の「属性」と考えられます。

 属性というのは不動産業界独特の用語で少し分かりにくいかもしれませんが、誤解を恐れずにストレートに言ってしまうと「働いてお金を返せる人かどうか」という意味です。

 例えば、上場企業の社員や公務員、医師など、社会的な立場とある程度の給与、そして定年までの雇用が保障されている人なら、物件に多少の難があっても、同行は積極的に融資を実施してきた可能性が高いでしょう。

 なぜなら、彼等はプライドがとても高く、世間体を過剰に気にするので、アパート経営に失敗してローンの返済が難しくなってもギリギリまで自己破産を回避しようとするからです(自己破産すると自宅マンションやクルマを売らなければならず、世間体が悪くなってしまう)。
 つまり銀行から見れば、どんな状況になっても、貸したお金をキッチリ回収できる可能性が高い人たちなのです。同時に彼等は不動産業者にとっても、最上の「お客さん」です。

 スルガ銀行の行員がどこまで不正に関与していたのかについては調査の結果を待つ必要がありますが、少なくとも当初は、属性の良い人に貸せば、貸したお金は回収できると見込んでいたはずです。
 こうした姿勢が行き過ぎ、かぼちゃの馬車のようなほとんど収益を生まない物件への融資にも手を染めてしまった可能性があると筆者は考えています。

 「事業」ではなく「人」に融資し、借り主のプライドや世間体をうまく利用して返済を促すというのは、昔から銀行がよく使ってきた手法といえます。スルガ銀行はネットを駆使した先端的な銀行ではありますが、ビジネスモデルそのものは、実はコテコテの日本型だったというわけです。

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