経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

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日産がルノーと完全統合?カギを握るのはマクロン大統領

 フランス政府が日産とルノーの完全統合を求めています。日産は実質的にルノーの支配下にありますが、カルロス・ゴーン氏という「人」を介して両者は絶妙なバランスを保ってきました。
 しかしゴーン氏もいつまでも経営トップでいられるわけではありません。ルノーの大株主であるフランス政府次第では、両者の完全統合という選択肢もあり得るかもしれません。

マクロン政権の誕生が状況を変えた

 仏ルノーは日産の株式を43.4%保有しており、日産の筆頭株主となっています。ルノーの出資比率は過半数以下ですが、ルノーから派遣されたゴーン氏が一貫して経営の舵取りをしてきましたから、市場では日産は完全にルノーの支配下にあると認識されています。

 一方でゴーン氏は日本への配慮から、ある程度、日産の独立性が担保できるよう工夫を重ねてきました。ルノーと日産について上限関係ではなく「ルノー・日産アライアンス」と称するなど、人を媒介にした絶妙なガバナンスを実施してきたわけです。

 しかしゴーン氏が日産のCEO(最高経営責任者)に加えて、ルノー本体のCEOにも就任したことや、年齢的に後継者へのバトンタッチも意識する必要が出てきたことから、状況が変わってきました。

 この変化を見逃さなかったのがフランスのマクロン政権です。

 フランス政府はルノーの筆頭株主となっており、事実上、ルノーはフランス政府の支配下にあります。2017年の選挙で大統領に就任したマクロン氏は産業政策を重視。ゴーン氏に対してルノー日産の2社連合を見直し、ルノーと日産を完全統合するよう求めたとされています。

 もっともフランス政府はマクロン政権が誕生する2年前の2015年にも経営統合を求めたことがありますから、この動きはマクロン政権独特のものではありません。これまでゴーン氏という著名経営者に一任していたものの、完全統合のチャンスを狙っていたともいえるでしょう。

ゴーン氏はグローバル人材ではない

 フランス政府がルノーと日産の経営統合を求める理由のひとつは規模の追求です。

 グローバルな自動車市場は成熟期を迎えており、上位グループによる寡占が急速に進んでいます。ルノー日産連合は2017年の販売台数で世界2位でしたが、この座を維持するためには、完全統合を実施した方が有利になります。

 もうひとつはフランス国内の事情です。マクロン政権は国内の生産を拡大することで雇用を増やそうとしています。ルノーと日産を完全統合し、日産の工場をフランスに移転すれば、国内の雇用増加につながります(それが日産のためになるのかは別にして)。

 当初、ゴーン氏はフランス政府の方針に対して慎重な姿勢を示していましたが、最近ではフランス政府に理解を示す発言が多くなってきました。一部からは「ゴーン氏が心変わりした」などといわれていますが、その指摘は適切ではないでしょう。

 日本ではゴーン氏のことを無国籍なグローバル人材と認識する人が多いのですが、実際はそうではありません。ゴーン氏はフランス企業を経営するフランス人です。
 日本と同様、フランスでも経営者の高額報酬は批判の対象となっており、ゴーン氏はこうした世論に配慮して、ルノーからは高額報酬を受け取ってきませんでした(その分、子会社である日産から多額の報酬を受け取っていたわけです)。

 筆者はゴーン氏のこうしたスタンスを批判したいのではありません。ゴーン氏は生粋のフランス人であり、フランス政府やフランスの世論に沿って行動するのは当たり前のことです。日本人が日本企業や日本の経営者に国益に沿った行動を求めるのと同様、フランス人も同じことを求めます。

 日本側としては、フランス政府が統合を断念してくれるのがもっとも望ましいですが、もしそうでなかった場合には、可能な限り、日産の独自性を維持できるよう、実務面での交渉を重ねるしか選択肢はないでしょう。

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