米下院のポール・ライアン議長が、突如、引退を表明しました。ライアン氏は2015年に下院議長に就任したばかりです。
三権分立が明確な米国では、下院議長は大統領に匹敵する立場であり、あっさりと交代するような仕事ではありません。本人は家族との時間を大事にしたいと説明していますが、それが建前に過ぎないのは明らかです。
家族との時間を大事にしたいという説明は本意ではない
ライアン氏は2018年4月11日、記者会見を開き、11月に行われる中間選挙に立候補しない考えを表明しました。ライアン氏は、2012年の大統領選挙で副大統領候補に指名されるなど、共和党の将来を担う人材です。トランプ政権発足後も税制改革実現のために奔走し、法案を成立に導きました。
引退の理由としてライアン氏は「家族との時間を大事にしたい」と説明していますが、それは建前に過ぎないでしょう。
米国の政治家というのは、本人のみならず、妻や子供など家族全員が総力を挙げて勝負しなければならない過酷な仕事です。彼等にプライベートな時間を楽しむなどという概念は存在しません。米国の有力政治家が、家族との時間を口にする時には、たいていの場合、別の理由があります。
今回の引退は、ライアン氏がトランプ政権に見切りを付けたというのが本当のところでしょう。
ライアン氏は48歳とまだ若く、タイミング次第ではいずれ大統領を狙える立場です。最悪、トランプ政権が瓦解するような事態となれば、政権を支えた下院議長として一緒に沈んでしまいます。
税制改革を実現させたという実績を花道に、一旦、議員を退き、大統領選出馬のチャンスを探るというのが、もっとも有力なシナリオでしょう。
ポスト・トランプに向けて動き始めた?
このところトランプ政権の支持率が低下しており、中間選挙では共和党の苦戦が予想されています。すでに20人以上の共和党議員が次回の選挙に出馬しない方針を表明しました。こうした選挙区は民主党が善戦する可能性が高く、共和党が下院で過半数を維持できるのか微妙な情勢となっています。
中間選挙の顔となるはずだったライアン氏が引退を表明したことで、この流れが一気に加速する可能性が出てきました。
もっともトランプ氏には熱烈な支持者が存在しており、彼等は政策ではなくトランプ氏そのものを支持しています。したがって中間選挙で共和党が大敗しても、トランプ政権がすぐに機能不全を起こすわけではありません。
しかし議会で民主党の影響力が強くなり、事実上、法案を通せない状態となれば、多くの人の関心が次の大統領選に向かうことは間違いないでしょう。
米国政治はポスト・トランプに向けて、いよいよ動きだしたのかもしれません。