加谷珪一の投資教室 第21回
株価には一定のトレンドが形成されることは経験則的に知られています。これは長期的にも短期的にも見られる現象ですので、一般的な法則といってよいでしょう。
もし市場が完全に効率的であれば、こうしたトレンドは発生しない可能性が高いのですが、現実にはトレンドが観察されます(参考記事:「そもそも株価は予測できるものなのか? 効率的市場仮説について」)。最近はあまり取り上げられなくなりましたが、マクロ経済の世界でも景気循環は大きなテーマでしたから、人間の経済活動には何らかの循環的な要素があり、これがトレンドの原動力と考えられます。
したがって、テクニカル分析の中でもトレンド分析はかなり有効性が高い手法といえます。しかし、時間軸が短期になればなるほど、株価の動きはランダムに近づいていきます。トレンド分析は比較的長期の投資においてより効果を発揮するでしょう。
長期のトレンドには特徴があります。時間が経過すればするほど、株価が高騰するという、いわゆる相場の過熱が観察されるのです。
株式市場は、常にすべての市場参加者が取引しているわけではなく、順を追って投資家が市場に入ってきます。
相場がスタートしたばかりの時は、経験豊富な個人投資家層が売買の中心となっていることがほとんどですが、株価が上がり始めると「株で儲かった」という話が一般に広がるようになり、これまで株式投資をしていなかった層の参加が増えてきます。この傾向がしばらく続くため、予想以上に相場が長続きすることが多いのです。
相場がスタートする時というのは、アベノミクス相場で言えば2012年後半、小泉構造改革相場では2003年前半がこの時期に相当します。
特に2003年は、日本が金融危機寸前まで追い込まれた状況であり、とても大相場が始まるという雰囲気ではありませんでした。しかしトレンドの転換に敏感だった投資の上級者はこのタイミングでの投資を決断しています。
こうしたわずかな動きを本物のトレンドに転換させるのは、ヘッジファンドなどプロの投資家です。彼等はリスクテイクのプロなので、上級者の個人投資家と同様、かなり早い段階から相場に参戦してきます。
しかも彼等の資金力は極めて大きいので、株価に対するインパクトも大きくなります。こうした投機筋が市場に入ってくることで、いよいよ株価は本格的に上昇を開始するわけです。
株価の上昇がはっきりしてくることで、株高がメディアなどで取り上げられることが多くなります。ここで動き出すのが規模の大きな機関投資家です。日本では生命保険会社、銀行、公的年金などがこれに相当します。特に今回のアベノミクス相場では、日銀と公的年金が株高を演出する主役となりました。
大規模な機関投資家の資金量は圧倒的で、しかも、原則として主要銘柄しか買いません。多くの人が注目する主要銘柄に大きな資金が流れ込むので、株価の上昇はより広範囲に知られるようになってきます。
一般の投資家が市場に入ってくるのは、これ以降のタイミングとなることがほとんどです。まずは投資信託の販売が拡大し、さらに株価を押し上げます。最終的には、もっとも保守的だった個人投資家が直接株式を買い上げることで、株価はピークを迎えることになります。
時間が経過するほど、参加する投資家の数が増えてきますから、株価にはトレンドというものが形成されやすいのです。