加谷珪一の投資教室 第19回
これまで本コラムでは「理論的な株価を算出し、それに対して割高か割安かを判定するのがファンダメンタル分析」、「株価には法則性があると考え、過去の値動きなどから将来の株価を予測するのがテクニカル分析」であると解説してきました。
つまりテクニカル分析は株価を予測できるという立場なのですが、これに対して100%反対という見解もあります。それが効率的市場仮説です。
効率的市場仮説というのは、現代金融理論の中核となっているもので、市場は常に合理的であり、利用可能な情報をすべて反映して価格が形成されるという理論(仮説)です。
自分だけが特別な情報を持っているということはあり得ず、そうした情報は瞬時に市場で共有化されるので、他人を出し抜くのは原理的に不可能であるとの立場に立っています。
この仮説に沿って考えると、株価を予測することはもちろん、割安株を見つけて大きな儲けを得るということも不可能になります。
効率的市場仮説に立つ人からみれば、テクニカル分析などもってのほかであり、ジョージ・ソロス氏やウォーレン・バフェット氏といったファンダメンタル派の成果もすべては偶然という結論にならざるを得ません。
もしこの考え方が正しいと仮定すると、プロのファンドマネージャーが運用する投資信託などはすべて無意味であり、最終的には市場が持っている本来の価値の分しか株価は上がりません。効率的市場仮説に立てば、日経平均などインデックスだけに投資をするのがもっとも合理的という考え方に到達することになるでしょう。
株価の動きは予測できず、確率的にしか表すことができないという意味で、効率的市場仮説における株価の動きはランダムウォーク(物理学におけるブラウン運動に近い)と呼ばれています。
図は乱数を用いて描いた擬似的なランダムウォークです。これは100円を基準にした架空の株価ですが、あたかも現実の値動きであるかのように見えるのではないでしょうか。
筆者は基本的にこの仮説について100%賛同しているわけではありませんが、現実の株価の多くがランダムに近い動きをしているというのも事実です。下手に相場に立ち向かうよりも、インデックスを運用する方がよっぽど儲かります。
以上の話をまとめると、株価の予測に対する考え方は、おおよそ以下の3つに分類することができます。
①市場は完全に効率的であり、予測は100%不可能(ランダムウォーク)
②市場は効率的だが一部不完全なところがある(ファンダメンタル派)
③市場は効率的ではなく、経験則から株価は予測できる(テクニカル)
どの手法が正しいのかという論争をしてもあまり意味はありません。現実には、①から③の手法をうまく組み合わせるということになりますが、どの立場を優先するのかについてはハッキリさせておいた方がよいでしょう。