経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. 経済

失業率の急低下がもたらすもの

 失業率の低下が急ピッチで進んでいます。すでにバブル期並みの水準まで下がっていますから、場合によっては物価上昇の引き金となるかもしれません。労働者にとっては賃金も上昇するので良いことのように思えますが、必ずしもそうとは限らないという点に注意する必要があります。

失業率が2.5%を切るとインフレになりやすい

 総務省が2018年3月2日に発表した労働力調査によると、1月の完全失業率(季節調整値)は2.4%と昨年12月の数字を0.3ポイントも下回りました。これは24年ぶりという低水準です。
 1カ月で0.3ポイントも下回るのは、極めて異例であり、統計上の異常値の可能性もありますが、失業率の低下が進んでいることは間違いないでしょう。

 失業率が下がっているのは、景気が良くなったからではありません。確かに2016年以降、世界景気が拡大したことで企業業績も回復していますが、失業率が低下した最大の原因は人手不足です。

 過去10年間で、15歳以上34歳未満の人口は17%減少する一方、60歳以上の人口は20%も増加しました。この間、総人口はあまり変わっていませんから、経済全体の需要は同じ水準が継続しています。需要が減っていないのに、生産現場の中核となる若年層労働者の数が減っているわけですから、人手不足になるのは当然といえば当然の結果です。

 一般的に、失業率が低下すると賃金が上昇します。労働者にとっては良いことのように思えますが、日本の場合にはそうはいかない事情があります。

situgyoritu

デフレを克服したら、すぐにインフレがやってくる?

 日本は大手企業を中心に終身雇用されている労働者が多いことから、そもそも賃金が上昇しにくい環境にあります。しかし、アルバイトやパートの賃金は市場メカニズムで決まりますから、人手不足の影響を受けやすくなっています。
 今後は、非正規労働者を中心に賃金の上昇が進み、これがジワジワと企業利益を圧迫するでしょう。最終的には製品やサービスの値上げに踏み切る企業が増えてくると考えられます。

 そうなってくると、全体の賃金が上昇しない中で、値上げが先行することになり、労働者全般の生活は苦しくなってしまいます。

 日本経済の歴史的な推移を見ると、失業率が2.5%を切ると急激にインフレ傾向が高まります。今はデフレマインド一色ですが、低い失業率が続いた場合、賃金上昇をきっかけとしたコストプッシュ・インフレが発生する可能性は否定できません。
 景気が伸び悩んでいる中でのインフレですから、いわゆるスタグフレーションに近い状態になる可能性も否定できないでしょう。

 もし失業率の低下が物価上昇を引き起こすのであれば、長年苦しんだデフレから脱却できる環境が整ったことになりますが、デフレから脱却すれば、すべてが解決するわけではありません。

 デフレ時代が長かったせいか、多くの人はすっかり忘れていますが、庶民にとってはデフレよりもインフレの方がずっと大変です。デフレ脱却と言って喜んでいたのもつかの間、今度はインフレに苦しめられる日がやってくるかもしれません。

PAGE TOP