加谷珪一の知っトク経営学 第1回
【テイラーの科学的管理法】
仕事ができる人には基本的にムダな動きというものがありません。これは組織も同じで、高い業績を上げている組織の多くはムダがないケースがほとんどです。
効率を上げるというのは、ビジネスにおいては基本中の基本とされており、経営学においても最初のテーマとして取り上げられたのは効率化でした。
仕事というのは積極的に管理するもの
効率化やムダの排除に着目した経営学の手法といえば、やはりテイラー(1856~1915)でしょう。産業革命以降、社会は急速に工業化しましたが、企業の経営は科学的とはいえず、思い込みや単なる経験値、勘などによって運営されていました(今でもそのような企業を見かけます)。
テイラーはこうした世界に初めてマネジメントという概念を持ち込み、経営を科学するという考え方を定着させたのです。テイラーが提唱した科学的管理法という概念は、あらゆる経営学の基礎となっています。現代経営学はテイラーからスタートしたといっても過言ではありません。
テイラーはストップウォッチを使って工場の作業員の動作時間を計測したり、道具を変えるなど様々な実験を行いました。その結果を元に「標準的」な作業というものを規定してみたのです。
各作業員に標準化されたやり方で仕事をやらせたところ、それぞれ好き勝手な道具を使って自分流のやり方で作業するよりも、生産量が増加し、コストは低下しました。仕事を「標準化」することで、もっとも効率のよい形で仕事を進めることができるようになったわけです。つまり、効率化のカギを握っているのは「標準化」ということになります。
日本の製造業はこうしたマネジメントが得意です。工場の中では、作業員の動きが徹底して標準化されています。同じ製品を組み立てる場合でも、できるだけ動きが少なくなるよう配置や作業手順には工夫が凝らされています。
時間の概念を持つことが重要
ところが日本の場合、オフィスに目を転じてみるとムダがたくさんあるといわれています。このオフィスのムダこそが、日本企業の生産性を下げる元凶となっているのです。
仕事を標準化してムダを省くためには、何をすればよいのでしょうか。テイラー着目したのは「時間」でした。
どのような作業にどの程度の時間がかかっているのか徹底的に調べ、最適な時間配分を考えました。オフィスの仕事においても時間の概念を導入することは効率化という点で非常に重要です。
カルビーの経営者として外部から招聘され、あっとう間に業績を回復させた松本晃氏は、朝、オフィスの机に座ってから何をしようか考えているようでは遅すぎると喝破しています。物事には優先順位というものがあり、重要なものから次々と片付けていかないと、最低限の業務すらままなりません。
どの業務がどの程度重要で、それにどのくらい時間がかかるのあらかじめ分かっていれば、業務を効率化することは簡単です。必要なことをこなすだけで、そのまま効率化につながってくるのです。マネジメント職にある人もそうでない人も、しっかりと理解しておいた方がよいでしょう。
次回はファヨールを題材に「マネジメントという仕事の本質」について取り上げます。
「加谷珪一の知っトク経営学」もくじ