経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. 経済

給料前払い制度が急拡大している背景

 このところ給料の前払い(日払い)に対応する企業が増えています。一部の企業はこの制度がないと、人材募集が難しくなるとも言われています。

 日本ではほとんどの企業が月給制を採用しており、たいていの場合、給料日にならないと賃金を受け取ることができません(25日に設定しているところが多い)。

 一部の企業では前払い制を用意していますが、企業としては、社員ごとに給与の支払いサイクルが変わると事務処理が複雑になってしまうことから、ホンネではあまり利用して欲しいとは思っていませんでした。しかし、こうした状況を変えたのが空前の人手不足です。

 若年層の労働者は給与を低く抑えられており、毎月の資金繰りが苦しいという人が増えています。企業は人材募集でできるだけ多くの人を集めようと、前払い制度の存在をアピールするようになってきました。
 経済的に恵まれている優良企業の社員にはあまりピンと来ない話かもしれませんが、実際、一部の企業では、前払い対応をアピールしないと社員の募集が困難というケースが出てきているのです。

 こうした状況に目を付けたのが、フィンテック企業や金融機関です。

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 これらの前払いサービスに契約した企業の社員は、給料日前であってもスマホのアプリで申し込めば、当日もしくは翌日に欲しい金額が指定口座に振り込まれます。

 前払いの費用はサービス提供会社が立て替えるケースが多く、企業側には資金的負担が生じません。その月に従業員が働いた分までという支払い上限があるものの、その範囲なら何度でも振り込みが可能というパターンがほとんどです。

 給料の前払い制度の拡大については「過剰消費につながる」との意見も聞かれます。確かに一部の社員は、こうした制度を乱用して、遊興費など過剰消費に走ってしまうかもしれません。

 しかしながら、経済的に見た場合、こうしたサービスの拡大は不可避であるといえます。

 以前から給料を前借りする浪費体質の人は一定数存在していたのですが、生活を破綻させることなく何とかやりくりしていました。その理由は、前払いに対応する便利なシステムがなかったからではなく、賃金の絶対水準が高かったからです。

 日本の労働者の平均年収は20年前には420万円もありましたが、現在は360万円にまで下落しています。こうした状況では、月払いを基本としたシステムは機能しにくくなります。そもそも、月に1回しか給与を支払わないという制度は、一カ月間、余裕を持って生活できるだけの賃金水準が確保されていなければ成立しません。

 日本企業は終身雇用制度を維持するため、産業構造の変革よりも人件費の圧縮を優先してきました。

 その結果、一部の労働者は月給制では生活できない状況にまで追い込まれている可能性があるのです。つまり、給与の前払いシステムが拡大しているということは、日本の労働市場における階層構造化が顕著になっていることの裏返しでもあります。

 こうした事情が関係している可能性が高いですから、安易な消費に走っているといった社会風潮の話としては捉えない方がよいでしょう。

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