経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

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カリスマ経営を象徴する企業だった日本電産で、いよいよ世代交代がスタート

 カリスマ経営者と呼ばれた日本電産の創業社長である永守重信氏が、社長の座を後任に譲りました。最高経営責任者(CEO)は継続しますが、同社の世代交代が進むことは間違いありません。

 日本電産は永守氏がゼロから立ち上げた会社で、永守氏はその強烈な個性からカリスマ経営者と呼ばれてきました。経営危機に陥った同業の会社を次々に買収し、多くをV字回復させてきた実績があります。最近は働き方改革が叫ばれており、かなり温和になってきましたが、永守氏ほど「猛烈」という言葉が似合う経営者はいません。

 同社の経営はすべて永守氏に依存しており、後継者にどのようにバトンタッチするのかは同社最大の課題でした。ちなみに永守氏には子息がいますが、いずれも他企業の経営などに従事しており、会社を継がせる意向はないようです。

Photo by U.S. Embassy Tokyo

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 当初、永守氏の後継者としては、興銀出身でカルソニックカンセイ社長などを務めた呉文精副社長(当時)が有力といわれてきましたが、呉氏は2015年に退任し、ルネサスエレクトロニクスの社長に転じてしまいました。
 一時期は、シャープの社長だった片山幹雄氏(現CTO)が後継者として取り沙汰されたこともありましたが、最終的には同社副社長の吉本浩之氏が社長に就任することになりました。

 吉本氏は大阪大学を卒業後、日商岩井に入り、のちにカルソニックカンセイ、日産自動車などでキャリアを積んできました。2015年に日本電産に入り、関連会社の社長などを務めています。

 吉本氏の人物像はあまり知られていませんが、京都出身で大阪大学を卒業していますから、根っからの京都企業である日本電産とのケミストリーは良好と思われます。

 このタイミングで社長の退任を決断できたのは、EV(電気自動車)シフトの影響が大きいでしょう。日本電産のような企業の場合、後継社長の負担は尋常ではありません。カリスマから経営を引き継ぐというマネジメント上の課題に加え、極限まで高まっている市場からの要求に応え、業績を上げ続ける必要があります。

 ユニクロを展開するファーストリテイリングは後継者の育成に失敗した過去がありますし、ソフトバンクの孫正義社長も次期社長の選定はうまくいきませんでした。

 もちろん、吉本氏が名実共に、日本電産の経営を完全掌握できるのかはまだ分かりませんが、同社には全世界的なEVシフトという追い風が吹いており、業績を大幅に拡大できることはほぼ確実です。好業績を維持しながらであれば、新しいマネジメント・スタイルを確立する負担はだいぶ軽くなるでしょう。

 もし、このまま世代交代をスムーズに成功させることができれば、永守氏は創業から退任まですべてをこなした完璧な経営者ということになります。EVシフトはもしかすると偶然かもしれませんが、こうした偶然を引き寄せることもカリスマ的な能力のひとつなのだとすると、永守氏の力は計り知れません。

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