経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. 社会

港区で若者が急増していることには理由がある

 このところ東京都の都心3区(千代田区、港区、中央区)で急激に子供の数が増えています。背景にあるのは総人口の本格的な減少と、それに伴う人口動態の変化です。以前から予想されていたことですが、日本社会の地殻変動が本格化してきたようです。

 2017年1月時点における東京23区の人口は約930万で、5年前との比較では8.5%ほど人口が増えています。日本は東京一極集中と言われており、東京圏の人口が継続的に増えていることは多くの人が知っていることでしょう。

 かつて東京は地方から大量の若者を吸い寄せる形で人口が増えてきたのですが、最近はだいぶ様子が違っています。
 日本は全体で高齢化が進んでおり、東京もその例外ではありませんが、高齢者の増加率は他の地域に比べるとかなり低くなっています。つまり東京では子供の数が相対的に増えているのです

 もう少し詳しく見てみましょう。2012年から2017年にかけて千代田区では15歳未満の人口は34%増加しました。港区は35%、中央区は41%となっています。これに対して、人気の住宅地と言われた世田谷区は10%、足立区は1.1%しか子供が増えていません。郊外である八王子市に至っては5.4%のマイナスでした。

 つまり東京都の都心で子供の数が急増しているのです。

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 この動きは、日本全体の人口動態と密接に関係しています。日本はこれからいよいよ総人口の減少が本格化します。人は経済活動を行って生活しているので、一定以上の人がいないと経済圏を維持することができませんから、人口が減ってくると、より便利な場所に向かって人が移動することになり、人口動態が変化します。

 この動きは「東京」対「地方」という図式のみならず、地方の中でも「地方中核都市」と「その他の地域」、東京の中でも「23区」と「郊外」、さらには23区の中でも「都心」と「その他の地域」といった具体に、一種のフラクタルのような形状になっていると考えられます。

 大きな視点でも、小さな視点でも、利便性の高い場所に人口が集約する形で総人口の減少が進むというのが、今後の基本的な流れといってよいでしょう。

 そうなってくると、東京エリアでは、子育て世代が利便性を優先して都心部に転居し、これが子供の人口を増やしていると考えられます。都心3区に近く、不動産価格が比較的安い台東区でも子供の数が増えていますから、この仮説は正しそうです。

 これは地方都市でも同じであり、地方中核都市の市街地に人口が集中する傾向は、さらに強まってくるでしょう。家具大手のニトリは、このところ都市部への出店を加速しているのですが、人口動態の変化は、大型店舗の出店戦略にも影響を与えることになります。

 残念ながら、こうした動きは人口減少に伴う構造的なものであり不可逆的です。

 利便性の高いところがさらに便利になることについては賛否両論があると思いますが、この動きを批判しても状況は改善しません。
 これからは、都市部への集中が不可逆的であることを前提に、人生設計を行うことが重要です。また政策という点でも、都市部への集約化が不可避であることを前提に、各種の支援策を立案していく必要があるでしょう。

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