農協改革に関する議論がヤマ場を迎えています。基本的にはJA全中という中央組織が全体を統括するのではなく、各地の農協が地域の実情に合わせた活動ができるよう、体制に変更するという流れになっています。
農協はカネとモノをすべて押さえている
JA全中は、確かに政治の世界には絶大な影響力を持っています。かつての農作物自由化反対運動や、近年の反TPP運動の中心になっているのはこの組織です。
しかしこの組織が全国の農協を統括しているのかというとそうでもありません。全中は全国の農協の利害関係の調整する組織といった方が現実に近いのです。
むしろ、現場の農家に対する影響力という意味では、それ以外の農協組織の方が絶大です。
農協の全国組織としては、全中以外にも、農産物の集荷や販売を一手に担う全国農業協同組合連合会(JA全農)や生命保険や損害保険のサービスを提供する全国共済農業協同組合連合会(JA共済)などの組織があります。
全農はある意味で、日本で最大級の農業関連商社ですし、JA共済は大規模な生損保会社ということになります。
農協グループは、農家に苗を販売し、収穫した農作物を一手に買い取り、農機具の販売を行い、それをサポートするための融資まで行います。さらには保険まで手がけているわけですから、それこそ農業従事者の生活すべてをビジネスにしているわけです。
日本がまだ貧しかった時代は、このシステムは非常によく機能しました。農家の生活水準の向上にも大きな役割を果たしたといってよいでしょう。
しかし、今ではずいぶん状況は変わりました。関係者の一部からは、農協は農業従事者のための協同組合ではなく、その組織を維持・拡大することが目的になっているという声も聞こえてきます。
農業のあり方が決まれば、必然的に農協のあり方も決まってくる
現在の平均的な兼業農家の年収は450万円ほどですが、このうち農業からの収入は実は50万円に過ぎないレベルです。200万円が勤労所得で、残り200万円は年金収入です。農業はアルバイト代にもなっていないというのが現実なのです。
現在、日本の農業はTPP(環太平洋パートナーシップ協定)を前に大きな岐路に立たされています。
政府ではタテマエ上は、農業を改革して競争力のある産業にするとしていますが、上記の年収の例からも分かるように、競争力のある農業を実現できる農家はごくわずかというのが現実なのです。
もしTPPを受け入れるのであれば、こうした競争力のない農家をどのように処遇するのかについて、真剣に議論する必要があります。
競争できない状態でも保護をするのか、それとも農業は諦めてもらい所得保障のような別な形で金銭的支援をするのかという選択が必要なのです。
一方、TPPを受け入れなければ、いずれ中国がTPPに加入し、日本だけが自由貿易圏に入れないという事態に陥るリスクがあります。この点については精神論に偏ることなく慎重に判断する必要があります。
農協改革は、TPP後における農家のあり方や、農業が生み出すお金と密接に関わっています。お金の問題を抜きに農協改革の議論を進めることはできないのです。