経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. 政治

バター品薄で浮き彫りになった日本の国家独占貿易システム

 このところバターの品薄が続いていますが、これに対処するため農林水産省が1万トンの追加輸入を決定しました。同省は2月に2800トンの輸入を行っていますから、今回はそれをはるかに上回る量の輸入ということになります。
 
 国内では年間約7万5000トンのバター消費があります。これに対して国内の生産量は6万トン程度となっており、足りない分は輸入で賄われています。バターが足りなければ輸入を増やせばよいということになるはずですが、日本の場合、そうはいかない特殊な事情があります。

バターは実は国家管理貿易だった
 バターが品薄になっているマクロ的な要因は、バターの原料となる生乳を生産する酪農家が減少し、生産量が減ってしまったことです。昨年は猛暑で牛乳の生産量が落ち込み、品薄に拍車をかける結果となりました。

 では、なぜ通常の食材のように、足りない分を事業者が輸入して需要を満たすことができないのでしょうか?
 
 その理由はバターが国家貿易の対象となっているからです。1993年に妥結した多国間貿易交渉(ガット・ウルグアイラウンド)によって、日本は、バターや脱脂粉乳といった指定乳製品を毎年一定量輸入しています。
 しかし、この輸入は、実質的に独立行政法人農畜産業振興機構が一元的に管理しており、各事業者が自由に輸入することはできないのです。

 バターを輸入する事業者は、あらかじめ同機構に登録を行い、輸入したバターは一旦、機構に売り渡す必要があります。機構はマークアップと呼ばれる内外価格調金を上乗せし、事業者は再び機構からバターを高い価格で買い戻し、これを市場に流通させているのです。

 わざわざ高い価格で買い戻すのは、国内の酪農家を保護するためです。輸入バターをそのまま流通させてしまうと、国内のバターが売れなくなってしまうため、高い値段でしか取引できないようにしているわけです。

nyugyu

独立行政法人の役割とは?
 酪農家を保護するためのこうした政策については、肯定・否定含めて、様々な意見がありますが、今回、品薄を引き起こした事とは直接関係ありません。品薄の主な原因は、内額価格を調整するために、同機構が輸入を一元的に管理している部分にありそうです。

 現在のやり方では、バターの輸入量やタイミングなどについて、すべて機構の方針に依存してしまいます。しかし所詮は役所ですから、民間企業のように機動的な判断や動きはできません。結果的に、需給動向をうまく把握しきれず、品薄を加速させた面は否定できないでしょう。

 農林水産省と機構は、従来の硬直的な輸入管理体制をあらため、定期的に輸入量の判断を行うことを決定しており、今回の追加輸入はこれに対応した措置ということになります。

 ただ、内外価格調整金を同機構が徴収し、独占的に貿易を管理するというやり方には構造的な問題がありそうです。さらにいうと、同機構はこうした措置によって一種の財源を得ていることにもなりますから、独立行政法人の存在意義という点でも疑問が残ります。

 今回の追加輸入で品薄がある程度解消されたとしても、根本的な問題が解決されたわけではありません。今回の一連の出来事をきっかけに、何のために農業政策というものが存在するのか、もう一度、考え直した方がよいかもしれません。

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