経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. 投資

為替市場で円安が進行。超長期的なトレンドがとうとう転換?

 為替市場で円安が加速しています。2015年5月28日には、大きな節目である1ドル=124円14銭を突破しており、長期的なトレンドが変化したと認識する投資家が増えてくると予想されます。為替市場は歴史的な転換点を迎えているのかもしれません。

歴史的節目をあっという間に超えてしまった
 今回の円安は何か大きなイベントをきっかけに相場が動き出したわけではありません。そろそろ為替が動き出すのではないかと多くの投資家が考えていたところに、複数の材料が重なってしまったことで、皆が一斉に動き出したことが原因と思われます。

 大きな流れとしては、多くの投資家が円安ドル高基調であると考えていました。マクロ的に見れば米国経済は好調であり、近い将来、利上げが行われることが確実だからです。

 しかし厳冬や港湾ストなどの影響から、1~3月期のGDPは年率換算でプラス0.2%とあまりパッとしない結果に終わりました。このため、一部の市場関係者は、米国の成長は踊り場に差し掛かっており、短期的には円高に戻ると考えていたようです。
 つまり中長期的にはドル高でコンセンサスが取れているものの、短期的にドル安になるという見通しと、このままドル高が継続するという見通しが交錯していたわけです。

 このため、ドル円市場は1ドル=120円前後を行き来するボックス圏相場が続いていました。テクニカル的にはいわゆる三角持ち合いという状況なのですが、経験則的に三角持ち合いが終了すると、上下どちらかに振れる可能性が高いとされています。
 値動きは小さいですが、チャート的にはそろそろ持ち合いが終了するタイミングだったことから、為替が動き始めるのではないかとの警戒感も高まっていたのです。

 こうしたところに、FRB(連邦準備制度理事会)のイエレン議長が年内利上げの可能性に言及し、設備投資や住宅販売など米国経済の堅調さを示す指標が発表されました。さらに日本の貿易統計が再び赤字に転じるなど、ドル高を想起させるニュースが相次ぎ、これによって投資家が一斉に動き出したものと考えられます。

 為替が急に円安に動いてしまうと、円高方向を前提にポジションを組んでいたファンドは一気に損失が拡大することになります。
 損失を最小限に食い止めるため、慌てて反対売買の決済を行うことになりますから、ますます円安が加速してしまいます。このため、突破までに時間がかかると思われていた1ドル=124円14銭をあっという間に超えてしまったわけです。

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超長期的な円安トレンドの始まりが意識される
 124円14銭という数字が強く意識されてきたのは、ここを超えると、長期的なドル円相場のトレンドが大きく転換したサインになると考えられていたからです。

 ドル円相場は、1973年に変動相場制に移行して以来、一貫して円高ドル安が続いてきました。円高が進むとその反動で一時的に円安になりますが、85年以降は、前回の円安を超えたことは一度もなく、円高がどんどん進んでいったわけです。

 直近でもっとも円安となったのは、2007年6月に付けた1ドル=124円14銭なのですが、これまでのパターンが続くのであれば、今回の円安でも、この水準は突破しないことになります。ところが市場はやすやすとこの水準を突破してしまいました。これは、30年近く続いた長期的な円高トレンドが大転換した可能性を示唆しています。

 長期的に見ると、為替は二国間の物価水準と高い相関性があります。日本のインフレがさらに進むようであれば、為替は間違いなく円安に向かう可能性が高いですが、日本のインフレ率は低迷しており、物価が急上昇するという環境ではありません。

 しかし、為替レートと現実の物価水準はニワトリと卵です。為替レートが円安に振れることで輸入物価が上昇し、現実にインフレが進行して円安を正当化するという流れになる可能性は十分にあります。
 そろそろ本気で、超長期的な円安に備えることが必要なタイミングなのかもしれません。

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