経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

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ギリシャ総選挙で急進左派が圧勝。だが市場へのインパクトは小さい

 ギリシャで議会選挙が行われ、財政緊縮策の見直しを掲げる「急進左派連合」が圧勝となりました。急進左派連合は、ただちにEU(欧州連合)との交渉を行う予定ですが、EUとの交渉が決裂しても、欧州経済への影響は限定的との見方がほとんどです。
 しかし、ギリシャがユーロから離脱するという事態になった場合、経済的にはともかく、政治的にはそれなりの影響が出てくる可能性があります。

ギリシャがユーロ圏から離脱しても市場への影響はほとんどない
 ユーロ圏というのは、圧倒的な経済力を持つドイツような国と、経済基盤が脆弱な南欧諸国という、全く異なった国々で構成されています。
 経済状況が異なる国をあえて通貨統合させているわけですから、そもそもの構造に無理があるというのは当初から指摘されていたことでした。

 ギリシャは債務危機の以後、EU主導で厳しい緊縮財政が行われてきました。ギリシャの実質GDP成長率は、リーマンショック後、2013年まで大幅なマイナス成長が続いてきたのですが、2014年になってようやく0.6%とプラス成長に転換しました。また財政赤字も以前に比べれば、著しく改善しています。

 しかし、失業率は依然として25%と高く、国民の不満が高まっています。こうした状況で勢力を伸ばしてきたのが急進左派連合です。急進左派連合は、サマラス首相が進めてきた、EU主導の緊縮財政に強く反対しており、債務削減や公務員の再雇用などを求めています。

 ただ、急進左派連合のツィプラス党首は、緊縮策の見直しは強く主張しているものの、ユーロ圏にはとどまる方針を示しています。このため、債務削減の交渉は行っても、ギリシャがすぐにユーロ圏から離脱する可能性は低いとの見方が大半です。

 また仮に、ギリシャがユーロ圏から離脱することになっても、経済的には大した話ではありません。

 ギリシャのGDPは30兆円と小さく、ユーロ圏全域のわずか2%に過ぎません。しかもリーマンショック後、ギリシャに対する債権は減少しており、今、ギリシャがユーロ圏から離脱しても、市場への影響はほとんどゼロといってよいでしょう。

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ユーロの問題は経済ではなく、むしろ政治
 しかし、ギリシャがユーロ圏から離脱した場合、政治的なインパクトは大きなものとなる可能性があります。なぜならEUやユーロという枠組み自体が、そもそも政治的なものだからです。

 欧州債務危機が顕在化して以降、ユーロという通貨体制が持続できるのか、あるいはギリシャやスペインなど債務国がユーロから離脱したらどうなるのかという問題について、もっぱら経済的な視点で議論が行われてきました。
 ユーロに懐疑的な人は、経済状態が異なる国の寄せ集めであるユーロはすぐに崩壊すると指摘していました。

 ユーロが寄せ集め通貨であるという指摘そのものは事実なのですが、こうした議論にひとつだけ抜け落ちている視点があります。それはEUやユーロという構想の背後には、各国によるドイツの封じ込めという政治的意図が存在していたという事実です。

 もともと欧州の統合には、欧州の政治体制を同一のものにして、二度とナチスドイツような国が台頭できないようにするという、政治的意図がきっかけとなっています。
 ここには当然のことながら、戦後、めざましい経済成長を実現したドイツに対して対抗意識を燃やすフランスの意向が大きく働いています。

 ユーロがもたらす経済的効果は、実は副産物であって、まず最初に政治というものが存在しているわけです。したがって、少々問題が発生しても、この枠組みを解体することは容易なことではないのです。

 もっともユーロ導入の結果は皮肉なものとなりました。政治的にドイツを封じ込めるための枠組みであったEUやユーロは、経済面で大きな効果を発揮し、特にドイツが最大のメリットを享受することになったのです。
 欧州域内に為替リスクなしで工業製品を輸出できるドイツは、ユーロのおかげで大きな利益を上げることが可能となりました。

 こうした事情が背景にありますから、仮にギリシャがユーロを離脱することになった場合、経済的な面よりも、政治的な面でのインパクトが大きいということになります。
 EUに懐疑的な人は欧州各地に存在しますから、こうした人達の政治的な活動を活発化させる可能性があり、欧州の政局はさらに流動的になるかもしれません。

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