パナソニックがエアコンや洗濯機などの、いわゆる白物家電について、今年の春から順次、国内生産に切り替える方針を明らかにしました。円安によって日本のモノ作りが復活するとの声も出ているようですが、これはどう考えればよいのでしょうか?
主な要因は円安ではなく中国の人件費高騰
これまでパナソニックは、国内向けの白物家電について、生産は中国で行い、日本に輸入して販売するというオペレーションを行ってきました。しかし、中国での人件費の高騰が激しいことから、2年ほど前から生産の一部を国内に移す検討を進めていました。
今回、円安が急激に進行したことで、国内の生産コストがさらに低下することになり、最終的に国内生産への切り替えが決定されたものと考えられます。
確かに円安がきっかけはなってはいるのですが、検討そのものは2年前から始まっていたわけですから、最大の要因は中国の人件費高騰と考えてよいでしょう。
今回のニュースを受けて、円安によって工場が日本に回帰し、国内の製造業が復活するという声も上がっているようですが、上記を考えるとそう単純な話ではないことが分かります。
円安は国内労働コストの相対的な低下を意味しますから、日本で製造することには一定の効果はあります。しかし、いくら日本の人件費が安くなったからといって、途上国のような生活をしているわけではありませんから、コスト削減にも限度があります。
また製品の製造原価に占める人件費の割合は25%程度であり、最終製品の価格では10%台まで低下します。部品の調達コストや減価償却費、研究開発費などの割合が高く、これらの費用はどこで製品を作ってもあまり変わりません。
最近の製造業は、需要のある地域で作ってその地域に販売するという、いわゆる「地産地消」が主流になってきています。需要のある国の労働コストがあまりにも高い場合にのみ、他地域で作った製品を輸入するということになるわけです。
その点で考えると、従来の日本は、大きな需要があるにも関わらず、コストが高く採算が合わない特別な場所だったわけです。
国内か海外かという単純な二者択一ではない
この状況を大きく変えることになったのが、中国の驚異的な経済成長です。従来、中国は、生活水準が低く、低コストが魅力だったのですが、ここ10年で様子は一変しました。
豊かな中産階級が台頭し、物価は急上昇。価格の安い途上国ではなくなってしまったのです。
パナソニックような企業はここで選択を迫られます。ベトナムやカンボジアなど、さらにコストの安い地域に工場を移すのか、日本に戻すのかという選択です。
ここで、重要となるのが、先ほどの地産地消という考え方です。
白物家電の主な販売先は日本です。しかも日本国内には、工場の海外移転によって生じた工場の空きスペースがあります。新しい国にわざわざ工場を新設するより、多少労働コストが高くても、国内の製造ラインを復活させた方がトータルのコストは安く済む可能性があります。
また国内向けの白物家電の市場規模が小さいということも影響しています。
パナソニックは全体で8兆円ほどの売上げのある会社ですが、白物家電などが含まれるアプライアンス事業の売上高は約1兆2000億円ほどになります。このうち国内向けの白物家電は5000億円程度であり、全体からするとごくわずかです。
全体の6%しかない事業のために、リスクを取ってさらに価格の安い新興国に工場を新設するよりは、国内に戻した方が安全というのは合理的な判断です。
しかしながら、これはすべての製品に当てはまるわけではありません。もしこの白物家電が、全世界に、しかも大量に出荷しなければならない製品だった場合、国内製造という選択肢は採用されなかったでしょう。
製造業は、需要と供給、そしてコストがうまくバランスするよう、常に最適化を行うことが重要です。生産拠点の選定は様々な要因で決定されることになるため、国内生産か海外生産かという単純な二者択一の図式にはならないのです。
今回の決定によって、多少の雇用増加になりますから、それはそれで評価してよいと思いますが、過剰な期待は禁物でしょう。