麻生財務大臣の「守銭奴」発言が話題です。麻生氏は2015年1月5日、日本企業が内部留保を蓄積していることについて「まだカネをためたいなんて、ただの守銭奴にすぎない」と発言しました。日本企業が守銭奴だというのは、どういう意味なのでしょうか?
内部留保は必ずしも現金とは限らないが・・・
麻生氏は、日本企業が内部留保を330兆円近くまで貯め込んでいることを批判し、もっと積極的にお金を使わないと経済がよくならないという主旨で、この発言を行いました。
麻生氏が主張するように日本企業は巨額の内部留保を蓄積しており、その水準は年々膨れあがっています。
ただ内部留保という話を引き合いに出すのは、少々誤解を招く可能性があります。というのも、内部留保はあくまで会計上の利益の蓄積であって、内部留保がたくさんあることは、必ずしも、現金を使わず、守銭奴のように振る舞っていることにはつながらないからです。
しかし日本企業の内部留保の実態を見てみると、麻生氏の指摘もあながちウソではありません。330兆円の内部留保のうち、約半額が現預金となっているのです。つまり日本企業は160兆円もの現金を持て余し、ただ銀行に預金している状態となっています。
それだけ現金があるのなら、新規事業や設備投資にお金を使い、積極的に業績を拡大すべきということになりますが、日本企業はあまり積極的に動いていません。手元の現金に執着しているという意味で、麻生氏は「守銭奴」と表現したわけです。
では、なぜ日本企業は「守銭奴」になり、手元の現金を使わないのでしょうか?
企業側としては、日本は人口が減少しており、経済の先行きが明るくないため、積極的に設備投資をする先がないと考えています。このため安全第一で現金を貯め込んでいるわけです。
しかし企業の役割は、保有する資金を事業という形で回し、より多くの収益を稼ぎ出すことです。実際、諸外国ではいくら経済の見通しが悪いからといって、企業が何もしないということは許されず、こうした経営者は株主総会で容赦なくクビにされてしまいます。
日本の経営者にはリスクを取るインセンティブがない
ところが日本の場合には、企業は従業員や経営者のモノという意識が強く、本来の所有者である株主が経営に口を出すことはタブー視されています。
このため、株主が経営者に対して口を挟むケースはほとんどありません。また経営者も従業員からの内部昇格が多く、株主からの要求を実現するという意識はありません。
結果として、役員の在任期間を無事に過ごすのがもっとも合理的ということになり、積極的な事業展開は好まれません。これは従業員にとっても同じです。
経営者が積極的で、新規事業や配置転換を行ってしまうと、自分の仕事がなくなってしまう人が出てきます。変化がないことは、多くの従業員にとっても居心地がよいわけです。
どの企業も積極的に動かないとなると、なかなかお金は回りません。結果的に企業活動も活発にならず、ますます皆が動かなくなるという悪循環に陥っています。
とにかく目先の在任期間を何事もなく過ごせばよいというメンタリティですから、麻生氏はこれを守銭奴と呼んだわけです。もっともこうした状況を作り出してきた張本人は政治家であるともいえますから、心情的には「麻生氏にはそのようなことを言われたくない」と思う人もいるでしょう。
しかし麻生氏が指摘している内容は、日本経済の現状を如実に表しています。事なかれ主義から脱し、新しいことにチャレンジするというマインドを持たなければ、いくら日銀が量的緩和策を進めても、日本経済を活性化させることは難しいでしょう。
本来、構造改革という言葉はこうした状況を改善することを意味していましたが、今の日本では過度な競争社会を強いる政策というニュアンスになっています。現状を打開しようという積極的な動きが出てこないことは非常に残念なことです。