加谷珪一の年金教室 第5回
日本の公的年金は破綻してしまうので、保険料を支払っても意味がないという意見を耳にすることがあります。これに対して、一部の識者は、日本の公的年金は「絶対に」破綻しないと言い切っています。実際のところ公的年金の財政についてはどう考えればよいのでしょうか。
日本の年金は子供が親の面倒を見るという考え方がベースになっている
何事についてもそうですが、状況を正しく分析したければ、過激な意見や「絶対」「必ず」といった情緒的な言葉からは一定の距離を置くのが原則です。
筆者は日本の公的年金が破綻するという話にも、絶対安全という話のどちらについても賛成できません。
日本の公的年金の安全性について、最初に理解しておくべきなのは、年金制度の基本的な仕組みです。この連載の第1回でも簡単に説明しましたが、日本の公的年金は、自分が現役時代に積み立てたお金を老後に受け取る制度ではありません。
日本の年金制度は賦課方式といって、現役世代が支払った保険料で高齢者世代を扶養するという考え方がベースになっています。
子供が親の面倒を見るという家族制度を社会全体に拡大したものですから、給付される年金の原資は、基本的に現役世代が支払った保険料となります。このため、社会の高齢化が進み、現役世代の割合が減ってくると制度の維持が難しくなるという特徴があります。
この仕組みが分かれば、公的年金の破綻の是非に関する議論がナンセンスであることが理解できると思います。
現役世代から徴収する分だけしか高齢者に支払わないというのが日本の年金制度である以上、仕組み上、この制度は破綻しようがありません。なぜなら現役世代から1円も徴収できないなら、究極的には給付をやめてしまえばよいからです。
破綻はしないが、減額の可能性は高い
しかしそれでは実質的に年金としては機能しないことになってしまいます。制度が破綻しないことと、現役世代から徴収した金額だけで、高齢者がまともな生活ができることはまったくの別問題です。
現時点で日本の年金は、現役世代から徴収する保険料よりも、高齢者に支払う年金の方が上回っており、恒常的な赤字財政です。しかも高齢化は今後も継続するので、状況が改善しないことはほぼ確定的です。
一連の状況を整理すると、日本の公的年金制度は、制度上、破綻することはありませんが、年金額の減額はほぼ避けられないというのが正しい認識ということになります。細かい話は別の機会に譲りますが、筆者の試算では長期的にみて、2割程度の減額があり得ると考えています。
もっともこの話は日本政府が財政危機にならないという前提条件付きです。もし金利が上昇して日本の財政が危なくなった場合、年金への国庫負担が減額になる可能性がありますから、給付水準はさらに下がる可能性があります。
公的年金は破綻するので保険料を払わないという選択はあまり合理的とはいえませんし、一方、日本の年金は絶対に大丈夫だという話はあまりにも楽観的過ぎます。年金財政を懸念しつつも、基本的には給付を受けられると考えるのが妥当な判断だと筆者は考えます。