加谷珪一の情報リテラシー基礎講座 第2回
前回は情報分析の基本としてタテとヨコがあるという話をしました。タテは昔に遡って分析することで、ヨコは他社や他国、他人と比較することです。情報に接したら、タテかヨコの分析を行うクセを付けておくと、思い込みなどによる影響を最小限にとどめることができます。
いつの時代も3割の新人が会社を辞める
毎年、春の時期になると「今年の新社会人には忍耐力がない」といった種類の話がメディアを賑わすことになります。
昔はこうだったという話題は、日常生活でもよく耳にしていることでしょう。しかし、この手の話にはウソが多いのも事実です。しかも、話している本人にウソを言っている自覚がないこともありますから要注意です。
では、最近の新社会人は忍耐がなく、すぐに辞めてしまうというのは本当なのでしょうか。厚生労働省では、毎年、新入社員がどのくらいで辞めていくのかについて調査を行っています。
それによると2013年度に入社した大学卒の新入社員で3年以内に会社を辞めた人の割合(離職率)は31.9%でした。2012年の調査では32.3%、2011年の調査では32.4%ですから、離職率はあまり変わっておらず、むしろ多少下がっています。
もう少し過去にさかのぼってみましょう。
最近の人がすぐ辞めるというのは単なるイメージ
2007年度の離職率は31.1%、1997年の離職率は32.5%ですから、ほとんど変化がありません。つまりずっと昔から離職率は3割程度で推移しており、最近上昇したわけではないのです。
「近頃の若者は忍耐力がない」というのは、今、中高年になっている人が作り出したイメージに過ぎないことが分かります。
今から20年前に新人だったサラリーマンは、現在、40代で多くが中間管理職になっています。彼らの同期だった社員も3割が会社を去っているはずですが、彼らはそのことをあまりよく覚えていないようです。
さらに時代をさかのぼって30年前の離職率を見ると、28.4%となっており、3割を切っています。つまりバブル世代より前のサラリーマンまでは定着率が高く、会社をすぐに辞めるようになったのは、今の中高年社員の年代からということになります。
整理すると、バブル世代のサラリーマンは、それより上の代から、すぐに辞めてしまうと批判されていましたが、この指摘はある程度は当たっていたことになります。
しかし、バブル世代以降、離職率はあまり変わっておらず、バブル世代に新人だった今の中高年社員による若者批判は、少々的外れということになるでしょう。こうしたことは、過去の数字を見ることではっきりしてくるものです。
近年、外国人観光客の増加に伴って、一部の中国人観光客のマナーが悪いという話を耳にすることがあります。
この話も、タテの分析ができれば、その理由や、今後の展開がどうなるのかについて、シンプルに理解することができます。詳細は以前、執筆したコラム「中国人観光客のマナーが悪い理由」を参照してください。
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