派遣労働が常態化するとして、メディアでも議論の対象となっていた労働派遣法の改正案が廃案となりました。その理由は何と、法案の条文や説明資料にずさんなミスがあったからという驚くべきものです。法案作成を担当した厚生労働省のキャリア官僚の能力が問われる状況となっているのです。
他の法案資料をコピペ?
従来の労働者派遣法では、企業が3年を超えて派遣労働者を受け入れることができませんでした。しかし改正案では、人を入れ替えれば、企業は3年を超えて派遣労働者を受け入れることが可能となります。
これまで3年という縛りがあったことで、派遣の利用を躊躇していた企業の中には、これを機に派遣に切り替えるところが出てくると考えられていました。
野党は派遣の常態化につながるとして、この法案に反対していたのですが、いざ国会の提出されると、予想もしない事態となりました。
国会に提出された後になって、罰則規定の条文や説明資料に相次いでミスが見つかり、審議に入ることができなかったのです。
具体的には、罰則規定の部分で「懲役1年以下」が「懲役1年以上」と記載されていたほか、議員に事前に配った資料においてもミスがありました。他の法案の説明に使った資料をそのままコピペし、その内容を書き換えていなかったのです。
野党は議論に値しないと法案の再提出を要求。国会の会期末になり、とうとう与党も廃案を了承しました。
本来、三権分立が発達している国では、法案の作成は国会が行います。しかし日本は三権分立が十分に確立していませんから、法案のほとんどは霞が関のキャリア官僚によって作成されます。
つまり、法案の作成や国会議員への説明といった仕事は、キャリア官僚の根幹をなす仕事といってよいわけです。
官僚が優秀なことはいいことなのか?
法案の作成過程では何回ものチェックが入るので、なぜこのようなミスが起こったのか少し不思議な感じがします。かつて霞が関の官僚は東大などを成績優秀で卒業した人がなるというイメージでしたが、最近は少し状況が変わってきています。
こうした事態を受けて、一部からは、キャリア官僚の法案作成能力が低下しているのではないかという指摘も出ているようです。
筆者は以前、仕事で霞が関の官僚と触れる機会がたくさんあったのですが、彼等キャリア官僚の能力が最近になって急低下しているのかどうかは、正直よく分かりません。
しかし、同じキャリア官僚といっても、省によってだいぶレベルが違いますし、これは他の企業でも同様ですが、同じ省の中でも個人によってかなりの能力差があります。
今回のミスはたまたまこうした作業が不得意な人が担当してしまっただけなのかもしれませんから、一概に官僚の能力が低下しているとは考えない方がよいでしょう。
日本ではとかく官僚に高い能力を求めがちなのですが、これは国民から見ると実は諸刃の剣です。
議会制民主主義の原則から考えれば、リーダーシップを発揮したり、法案を作成するのは、本来は国民から選挙で選ばれた政治家の仕事です。官僚はあくまで裏方であり、重要な決断はすべて政治家が行わなければなりません。
しかし、日本ではこうした重要な決断や政策の立案のかなりな部分が官僚の手に委ねられています。官僚があまりにも優秀だと、すべてが官僚の思うとおりに政策が進んでしまい、国民の意向がないがしろになってしまいます。
優秀な官僚は、目立たないように、こっそりと自分達が望む政策を紛れ込ませてきます。政治家の決断に対して露骨に反対して抵抗勢力になるような官僚は、むしろ三流なのです。
最終的には国民が政策をしっかりとチェックし、こうした「優秀」な官僚をしっかりと牽制してくれるような政治家を選ぶことが大事になります。