経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. トピックス

米国が石油の輸出を解禁する意味

 米国がいよいよ自国産の原油の輸出を開始します。米紙によるとオバマ政権は石油会社2社に輸出の許可を出しました。
 米国はこれまで40年にわたって自国産原油の輸出を禁止してきたのですが、その方針を大きく転換させることになります。これは政治的にも経済的にも非常に大きな影響を及ぼすと考えられています。

米国は石油という強力な武器を持つことになる
 米国は1970年代のオイルショックをきっかけに、国産原油を原則として輸出禁止にしてきました。しかし、米国の石油をめぐる状況は大きく変化しています。そのきっかけになったのがシェールガス/シェールオイルです。

 米国では、ここ10年の間に、極めて安価なシェールガス/シェールオイルの開発が急速に進んでいます。これによって米国は、近い将来、自国で必要とするエネルギーのすべてを自給できるようになります。米国政府は、石油の輸出禁止措置を緩和し、世界各国に原油を輸出できるようにしようと考えているわけです。

 米国は世界最大の石油輸入国から、世界最大の石油産出国に変わろうとしているのですが、もしこれが実現すると、戦後の国際秩序や世界経済の仕組みを根本的に変えてしまうほどのインパクトがあります。

 そもそも米国が世界各地に強力な軍隊を展開している目的のひとつは、石油の安定確保とその輸送ルートの保持にあります。イラク戦争の是非は今でもかなりの議論になっていますが、いい悪いは別として、その背後には、中東の石油という問題が存在しているわけです。

 1970年代のオイルショックの時には、産油国がカルテルを結成し、石油の価格をつり上げ、米国は大変な思いをしました。石油の輸出禁止措置も、その時の苦い記憶があるからです。

 ところが、今後は米国が石油を外国に輸出し、政治的な武器に使えるようになります。米国は現在、史上最大規模の軍縮を行っていますが、それでも米軍の規模は世界でも突出しています。米国の軍事費は年間70兆円ほどで日本の国家予算に近い水準です。

 2位の中国が17兆円、3位のロシアが10兆円、日本は5兆円ですから、その規模の違いが分かります。ただでさえ、強力な軍隊に加え、今度はエネルギーという外交的な武器まで持ってしまうわけです。

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米軍のアジア・シフトとドル高が加速?
 ウクライナ問題ではロシアが強硬な姿勢を崩していません。ロシアのGDPは米国の7分の1しかなく、経済的にはむしろ弱小国です。それにもかかわらず、あれほど強気な態度を貫けるのは、天然ガスという輸出できるエネルギーを持っているからです。

 今度は米国も同じことができるわけですから、潜在的には米国の立場はさらに強くなると考えた方がよいでしょう。
 外交的には中東への関与が一気に低下することが考えられます。オバマ政権はすでに中東からアジアへ軍事力をシフトする、いわゆるリバランス戦略を開始していますが、それに拍車がかかってくることでしょう。

 中東ではイスラエルが完全に孤立することになりますが、これが中東に安定をもたらすのか、紛争をもたらすのかは何とも言えません。

 経済的には、好調な米国の景気と連動しドル高が進行する可能性がさらに高くなってきました。米国はこれまで多額の貿易赤字を垂れ流してきたのですが、その多くが石油の輸入によるものだったからです。

 米国がエネルギーを自給し、輸出まで可能になると、米国の貿易収支が劇的に改善します。これまで世界経済は米国の貿易赤字によるドル垂れ流しに依存してきたのですが、今度はお金の流れがまったく逆になってしまうのです。

 これは長期的にみて、国際的な投資資金の動きに劇的な影響を与えそうです。投資をしている人は、この流れをよく理解しておく必要があります。

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