加谷珪一の投資教室 第15回
PBR(株価純資産倍率)はPER(株価収益率)とともに、よく目にする指標のひとつです。PERは、株価が今の利益の何倍になっているのかを示したものですが、PBRはこれを純資産にあてはめたものになります。
つまり株価(時価総額)が現在の資産の何倍になっているのかを示しており、具体的には株価を1株当たりの純資産(BPS)で割って算出します。
PERは利益の面に着目した指標ですが、PBRは資産の面に着目した指標といってよいでしょう。
PERは企業のP/L(損益計算書)に関する指標、PBRは企業のB/S(貸借対照表)に関する指標と言い換えることもできます。さらに言えば、PERとPBRは時間に関して、正反対の概念を持っています。
お金にはフローとストックの2種類がありますが、利益というのはフローを表しており、1年間で得た儲けを示しています。これに対して資産はストックに分類され、過去、どれだけの利益を積み上げてきたのか示しています。つまり、「利益」というものは時間軸が「今」であり、「資産」は「過去」なのです。
これをPERとPBRにあてはめてみると、PERは今の利益が何年続くのかということを示しており、PBRは過去の利益に対して市場がどう評価しているのかを示していることになります。PERは将来に対する評価であり、PBRは過去の資産に対する評価と考えればよいでしょう。
企業は年月が経過すればするほど、過去の利益を蓄積し、実物資産としての価値が高まります。
企業は多額の資本を持っている方が、規模の大きなビジネスを展開でき、より多くの利益を上げることが可能となります。歴史のある大企業が過去の利益の蓄積を使って大きな事業を展開できるのはある意味で当然のことなのです。
しかしながら、企業の規模はどこまでも大きくなれるわけではなく、どこかで限界点が来てしまいます。過去の利益が積み上がり過ぎると資本全体が重くなり、経営効率悪化してくるのですが、こうした会社のPBRは相対的に低くなりがちです。
一方、出来たばかりの会社は過去からの利益の蓄積がほとんどありません。資本が小さければ大きなビジネスを展開することは困難ですが、中にはアイデアや高い技術によって、少ない資本で大きな利益を上げる会社も出てきます。こうした会社のPBRは相対的に高く評価されます。
このようにPBRには、過去の経緯というものが数字に含まれますから、この指標だけを使って株価の割高、割安を単純に判定するのは避けた方がよいでしょう。たいていの場合、PBRは極めて割安に放置されている銘柄を探し出すことに用いられますが、具体的な方法は次回に解説します。