経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. 経済

春闘で3%の賃上げが実現しても、多くの人にとって年収が変わらない理由とは?

 2月に入り、春闘をめぐる動きが本格化してきました。安倍首相は企業に対して3%の賃上げを求めており、経団連も各企業に前向きな対応を呼びかる方針です。しかし、現実に3%の賃上げが実現するのかは難しいところです。現状では賃上げを阻む要素が払拭できないことに加え、残業代規制によって、仮に賃上げが実現しても、実際の年収が増えない可能性が高いからです。

 昨年後半から日本の景気が上向いているのは事実ですが、これは好調な米国経済を背景に製造業の業績が回復しているからです。しかしながら稼いでいるのは米国であって日本ではありません。経営者としては、稼いでいる地域(つまり米国)の従業員の昇給を優先させる形になります。

 これに加えて日本の場合、終身雇用制度と年功序列の雇用体系が昇給を邪魔します。
 企業はひとたび社員を雇ってしまうと、一生、その社員の面倒をみなければなりません。しかも年功序列の場合、勤続年数が長い社員ほど給料が高くなってしまい、企業の負担は増えるばかりです。このため、日本企業の経営者は、どうしても賃金を抑えようとします。

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 中国のような社会主義国家は別として、本来、賃金というのは企業と社員の交渉で決まるものです。企業活動に対して政府が直接、口を出すというのは、資本主義国では極めて異例の事態といってよいでしょう。こうした状況を考えると、企業側もある程度は、賃上げを受け入れる可能性が高いと考えられます。

 しかし、その先にも関門が待ち構えています。それは政府による残業規制です。
 政府は働き方改革の一貫として、企業に対して長時間残業を抑制するよう求めており、残業時間の上限規制(罰則付き)を導入する方針です。大和総研の試算によると、この上限規制が導入された場合、日本全体で8兆5000億円の賃金が抑制されるそうですが、日本における雇用者報酬の総額は約260兆円ですから、8.5兆円という金額は日本の労働者が受け取る賃金全体の約3.3%に相当します。

 つまり、残業の上限規制が導入された場合、労働者の年収は3.3%減ってしまうことになります。仮に春闘で労使が合意に達し、3%の賃上げが実現しても、最終的には元の水準に戻るだけで現実の年収は増えない可能性が高いわけです。

 日本では、構造的に賃金が上がりにくい仕組みになっており、これを変えるためには、日本の産業構造そのものを変革する必要があります。当分の間、昇給で生活がラクになるという状況は期待しない方がよいでしょう。

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