私たちの公的年金の運用を株式にシフトしようという動きが一気に加速しています。デフレから脱却したことをきっかけに、株式などの比率を増やし、運用成績を上げようというのが狙いですが、株価対策という側面もあるようです。
年金が株価対策に利用されている?
田村厚生労働大臣は2014年6月6日、公的年金の運用を行っているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)に対して、国債に偏っている運用方針を見直すよう要請する考えであることを明らかにしました。これは、年金運用の株式シフトを進めたい安倍首相の意向を強く受けての発言です。
年金の運用改革については2013年11月に、国債を中心とした従来型ポートフォリオの見直しを求める有識者会議の報告書が出ています。
安倍首相は2014 年2月の衆院予算委員会で、公的年金の運用方針を見直す考えを表明しており、現在はその方向で着々と準備が進められています。
しかし安倍政権としては、こうした議論を待っている余裕があまりないというのが現実です。年初に1万6000円を突破していた株価が成長戦略への失望によって売られ続けており、何としても株価を回復させたいからです。
もっとも足元では、すでに年金による株の買い出動が行われているようです。5月最終週の東証の売買動向では、信託銀行経由の買い越し額が2400億円を超えていました。
信託銀行には、誰かの意向を受けて、その本人に代わって市場で売買を行う役割があります。この時期に銀行や生命保険課会社などが大量に株式を購入するとは考えにくいですから、ほとんどが公的年金による買いと考えてよいでしょう。
インフレ時代に株式へのシフトは合理的だが
日本はデフレからインフレへと転換しつつあります。インフレが進んだ場合、国債を保有し続けていると損失が出る可能性ががあります。国債に偏り過ぎている現在の運用体制を見直すこと自体は合理的な判断といえるでしょう。
しかし、株式の比率を上げるということは、より高いリスクを背負うということも意味しています。もし運用に失敗してしまえば、年金の額を増やすどころか、逆に金額を減らしてしまうことにもなりかねません。
一方で日本の年金は、年金を支払う現役世代より、年金を受け取る高齢者世代の方が多いという根本的な問題を抱えています。よりリスクの高い投資を行い、運用益を増やさないと年金を維持できないという事情もあるわけです。
それに加えて、足元の株価を上げたいという思惑も加わっているので、話は非常にやっかいになっているのです。
年金は私たち国民の生活を直撃します。年金を減らしてしまう可能性があっても、より収益率の高い投資を行うべきなのか、それとも年金の額がどんどん減ることはガマンする代わりに、安全な運用に徹してもらうのか、私たちは真剣に考える必要があります。
今のままでは十分な議論が尽くされたとはいえません。後になってから、こんなはずではなかったということがないよう、もっと国民的な議論を行うべきでしょう。