前回は公的年金の運用を株式にシフトする動きが加速しているという話をしました。その背景には、今のままでは年金の支給額を維持できないという、厳しい年金財政事情があります。
日本の年金は積み立て方式ではない
多くの人が勘違いしているのですが、日本の年金は自分で払った保険料を積み立て、後でその分をもらうという仕組みにはなっていません。
年金制度には、積立方式(つみたてほうしき)と賦課方式(ふかほうしき)という2種類があるのですが、自分で払った分を自分がもらうのは積立方式です。
これに対して、日本のやり方は、働く若い世代の人が払い込んだお金を、そのまま高齢者に支給する賦課方式です。この方式では、自分がいくら払ったのかに関係なく、その時に存在している高齢者をすべて支える必要が出てきます。
年金に限らず、日本の社会保障制度は、基本的には家族が相互に生活の面倒を見るという、家族主義的な価値観が元になっており、政府が自立した個人の生活を保障するという形にはなっていません。
要するにムラ社会の延長線上として制度が設計されているのですが、多くの人がそんはなはずはないと思っているので、いろいろとミスマッチが起こってくるのです。
よく聞かれる議論は年金が破綻するかどうかというものです。厚労省は「年金は破綻しない」と言っていますが、一方では「それはまやかしだ」という意見があります。これも積立方式と賦課方式の認識の違いが原因です。
男性も女性も生涯働くことが前提に
日本の年金はあたかも積立方式であるかのようなイメージを持たせていますが、現実には賦課方式です。
この方式であれば、現役世代の人口がゼロになるまで、年金を徴収することができますから、そもそも理論的に破綻という概念がありません。ただし最悪の場合は、年金が1円以下になってしまうこともあるでしょう。しかし破綻はしていないのです。
賦課方式の場合には高齢者人口が増えていけば、支給額は限りなく少なくなっていきます。今のところ120兆円の積立金があるので何とか運用益でカバーしていますが、その積立金も年2~3兆円のペースでなくなっています。
先日、厚労省が長期的な年金の財政見通しを公表しました。それによると、経済が順調に推移した場合には、30年後において現役世代の給料の50%程度を維持できるとしています(これはあくまでその時の現役世代の平均給与に対する割合ですので、今自分がもらっている給料の50%という意味ではありません)。
しかしこの試算には前提条件があります。女性と高齢者の社会参加が進み、運用が好調だった場合というものです。男性も女性も生涯にわたって仕事を続け、かつ年金運用がうまくいった場合の数値です。
一方、女性の社会進出がスムーズに進まず、経済の低成長が続くケースでは、2055年に年金の積立金がなくなり、給付金額は現役世代の37%程度まで下落するとしています。
好景気がずっと続く保証はありませんし、女性の社会参加や高齢者の就労もスムーズに進む保障はありません。場合によっては、その程度まで給付水準が悪化する可能性があることも考えておいた方がよいでしょう。