経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. 社会

パワハラ防止法の成立で、日本の職場はどうなる?

 職場でのパワハラ防止を義務付ける法律が今国会で可決・成立しました。一部から効果について疑問視する声も出ていますが、4月から施行された働き方改革関連法とセットになることで、相応の効果が期待できるでしょう。

パラハラの定義が明確に

 パワハラ防止法というのは、単独の法律ではなく、労働施策総合推進法や女性活躍推進法など5つの法律を総合したものですが、最大の特徴は、パワハラについて「優越的な関係を背景にした言動で、業務上必要な範囲を超えたもので、労働者の就業環境が害されること」とハッキリ定義したことです。

 これまでは、何がパワハラで何がパワハラでないのかの線引きは曖昧でした。具体的な行為の判断基準については、現在、政府内で検討中ですが、殴るといった「身体的な攻撃」はもちろんこと、同僚の目の前での叱責や、大量の仕事を押しつける、逆に仕事を与えないといった行為は明確にパワハラと認定されます。

 この法律には罰則規定がなく、一部の専門家からは法律の効果について疑問視する声も出ているようですが、筆者はかなりの効果があると見ています。その理由は、2019年の4月から働き方改革関連法が施行されており、パワハラ防止法はこれとセットになるからです。

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賃金が下がるという思わぬ影響も

 従来の日本企業においては、パワハラと無制限の残業は事実上セットになっていました。生産性の低さを滅私奉公と暴力的な社風でカバーするという図式ですが、今回の立法化によって、両者が法律で明確に禁止されることになります。

 罰則規定がなくても、悪質な企業は社名が公表されますから、一定以上の規模を持つ企業であれば、パワハラには神経質にならざるを得ないでしょう。低い付加価値しか生み出せず、長時間残業とパワハラで乗り切ってきた一部企業への影響は絶大でしょう。

 日本の場合、労働法制上、企業は自由に社員を解雇することができません。パワハラはもちろん許されることではありませんが、諸外国において日本のようなパワハラ問題が存在しなかったのは、企業がいつでも社員を解雇できたからでもあります。

 日本では一旦、雇った社員は解雇できませんから、一部の企業は、いわゆる「追い出し部屋」に異動させて、事実上、退職に追い込むという措置を行ってきました。法律の施行後はこれが一切できなくなりますから、企業は人件費の増大を強く警戒することになり、社員の賃上げにはさらに消極的になるでしょう。

 雇用が流動化しない中での法律の施行ですから、一連の施策は高い確率で賃下げの効果をもたらすと考えられます。

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