ソニーが高度人材の確保を目的に、新入社員に対して最大で730万円を支払う制度をスタートさせたことが話題となっています。日本企業としては画期的な取り組みですが、グローバル基準で見ると、特別に高い報酬というわけではありません。ソニーは外国企業との競争に打ち勝って、高度人材を確保できるのでしょうか。
初年度、年収600万円というのは世界レベルで見れば標準
同社はこれまでも仕事の役割に応じた等級制度を採用してきましたが、これまで等級を付与していなかった新入社員にも適用し、高い賃金を払えるようにします。
同社の大学院卒新入社員の年収は約600万円ですが、今回の措置によって、もっとも優秀な社員の場合には年収が2割ほど増えて730万円になるそうです。
新入社員の待遇をアップする理由は、高度なスキルを身につけた人材を海外企業に取られないようにするためです。
グローバルに展開する優良企業の場合、大卒の技術系新入社員に年収600万円を提示することは特段、珍しいことではありません。中国の通信器機大手ファーウェイ(華為技術)の日本法人は、2年前の2017年に新卒の学生に対して約500万円の年収を提示したことが話題になりましたが、中国のメーカーですら、この金額を出していたわけですから、ソニーが提示した最大で730万円という金額も実は特別高いという部類には入りません。
特にAI(人工知能)などのスキルを持った学生に対しては、諸外国の企業では1500万円から2000万円の年俸を提示するケースもありますから、今回の制度改正によって、こうした人材をソニーが獲得できるのかは微妙なところでしょう。
結局は賃金体系の抜本的な見直しが必要?
日本企業は基本的に年功序列の賃金体系ですから、若手の年俸を急激に上げることについては、社内から反対の声が上がるケースが少なくありません。ソニーは成果報酬に前向きな企業ですから、他の企業に比べれば、障壁は低いと思いますが、さらに年俸が上がるということになると、そう簡単にはいかないかもしれません。
また技術系社員の場合、年収に加えて、職場の環境を重視する傾向が極めて強く、開発環境が貧弱な企業には人が集まりません。日本では、著名なIT企業であっても、非力なパソコンしか供与しないといったケースがあり、これが優秀な技術者の日本企業への就職をためらわせている面があります。
結局のところ、新卒の一括採用や年功序列の賃金体系、ゼネラリスト的な人事を抜本的に変えなければ、新入社員に対して思い切った処遇をするのは現実的に難しいと考えられます。その意味では、ソニーの新制度が、今後、どのような展開を見せるのか要注目といってよいでしょう。