経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. ビジネス

総2階建てエアバスA380が生産中止となった必然

 これまで幾度となく生産中止が取り沙汰されてきたエアバスの超大型機A380の生産打ち切りが正式に決定しました。A380は圧倒的なキャビンの広さや、高い静粛性から、一部の乗客が熱烈に支持してきましたが、中小型機へのシフトという時代の波には逆らえませんでした。

最大顧客のエミレーツが追加注文をキャンセル

 エアバスA380はジャンボの愛称で知られるボーイング747を超える超大型機として2005年に登場しました。ジャンボは一部分だけが2階建てとなっていますが、A380は総2階建ての設計となっており、他にはない圧倒的な客室スペースが魅力です。一般的に機体は大きければ大きい方が静粛性は高いですから、その点においてもA380は突出していました。

 これまでエミレーツ航空を中心に200機以上が空を飛んでいますが、このところ受注が減少しており、新規受注がほぼゼロという状態が続いていました。

 現在、エミレーツは109機を運航中で、53機を継続注文していましたが、このうち39機をキャンセルしたため、エミレーツからの受注は14機に減少。A380については、現在、月産1機程度の生産体制と思われますが、他の航空会社からもキャンセルがあり、このままでは2021年に生産が止まる可能性が高まってきました。このためエアバスはA380の生産打ち切りを決定した模様です。

PHOTO-Emirates-A380-taking-off-sunset

空の旅を楽しむ時代は終わった?

 超大型機で苦戦しているのはエアバスだけではありません。ジャンボの愛称で親しまれたボーイング747も事実上、生産中止に近い状況にあり、貨物機以外での新規生産はほとんど行われていません。

 A380やボーイング747といった超大型機が苦戦しているのは、航空輸送の環境が激変しているからです。

 新興国の経済成長に伴って世界の航空需要はうなぎ登りに拡大しており、こうした需要に対応するため安価なLCC(格安航空会社)が急成長しています。LCCの場合、基本的にコスト勝負なので搭乗率を極限まで上げる必要があり、取り回しのよい中小型機が歓迎されます。

 これに加えて最近はボーイング787など、超大型ではない機種も燃費向上で航続距離が長くなり、長距離路線に投入できるようになってきました。一方、超大型機の場合、相当な乗客数が見込める主要路線でなければ、コスト効果を見込めませんから、どうしても路線に制限が出てしまいます。

 豪華さをウリにしてきたエミレーツ航空でさえも、こうした時代の流れには逆らえませんでした。今回の決定で、一部のファンは落胆していますが、これもやむを得ない措置です。優雅な空の旅という時代は完全に終わったとみてよいでしょう。

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