国家の成熟度合いで国際収支の状況は変わる

加谷珪一の超カンタン経済学 第29回

 経済学には、その国の成熟度に合わせて国際収支が変化していくという「国際収支発展段階説」というものがあります。これまでのところ、多くの国が、この発展段階説に従って進んでいます。

国際収支は成熟度に合わせて進化していく

 発展段階説は6つのフェーズで構成されます。最初の段階は「1.未成熟な債務国」です。工業化が進んでおらず、多くを輸入に頼るので貿易収支は赤字です。その代金を確保するため外国からの負債で調達しますから、金融収支も赤字となります。負債には利払いが生じるので所得収支も赤字です。

 工業製品の生産が拡大してくると貿易収支が黒字になります。しかし、対外債務の利払いがあるため経常収支は依然として赤字です。この段階を「2.成熟した債務国」と呼びます。

 次の段階は「3.債務返済国」です。工業製品の輸出がさらに拡大して貿易黒字が増えてくると、所得収支の赤字を貿易黒字が上回り経常収支が黒字に転じます。余剰の資金が海外投資に向かいますから、金融収支も黒字になります。

 経常黒字が拡大し、海外からの利子や配当が増えてくると、所得収支も黒字になります。この段階が「4.未成熟な債権国」です。

 所得が増え、社会が豊かになると労働コストの上昇が始まり、一部の製品は輸入した方が採算が合いやすくなります。この結果、貿易収支が赤字に転じることになりますが、海外からの利子配当が多いので経常収支はまだ黒字が続きます。これが「5.成熟した債権国」です。

 最終段階が「6.債権取崩し国」です。貿易赤字が拡大し、所得収支の黒字を上回るようになると、経常収支が赤字に転じます。結果として、金融収支も赤字になるので、対外純資産が減少していきます。もっとも豊かな成熟国家はこのような状況になります。

Copyright(C)Keiichi Kaya

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成熟国はどのようにして再スタートを切るのか?

 日本は現在、「4.未成熟な債権国」から「5.成熟した債権国」への進みつつあります。震災の後、貿易収支が大幅に減少しましたが、その後は、世界景気の拡大もあり、貿易黒字が再び増加しました。しかし、近い将来、日本の経常収支が赤字になる可能性は高いでしょう。

 米国や英国など、もっとも先端を行く先進国はすでに6の債権取り崩しフェーズに入っています。その後、米国や英国がどのような展開になるのかは、現段階では分かりません。

 アルゼンチンのようにかつては先進国だった国が、完全に対外債務に依存する国に転落したケースもあります。ただ米国には競争力のある企業が多いですし、シェールガスの開発が進んだことでエネルギーを完全に自給できるようになりました。

 米国が余った石油を輸出するようになると、米国の経常収支が大きく改善する可能性も出てきますし、そうなると必然的に金融収支も改善します。経常収支がプラス、金融収支もプラスということであれば、4段階目の「未成熟な債権国」となり、かつての日本ののような状態で再スタートを切ることが可能かもしれません。

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