経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. お金持ち

ベンチャー企業が富を膨らませるメカニズム

お金持ちを科学する 第14回

 前回は、個人で高い年収を稼ぐのではなく、事業という仕組みにすることで、効率良く資産を構築できることについて解説しました。今回は、ベンチャー企業が巨額の富をなぜ短期間で作れるのか、さらに詳しく解説したいと思います。

起業家は自分のお金を自分の会社に投資する

 事業をスタートするには、多少のまとまったお金が必要です。近年はITインフラの発達で、スタートアップ時に必要な金額はどんどん少額になっていますが、それでもまったくゼロからというワケにはいきません。
 こうした資金は銀行から借りることもできますが、何の実績もなく、提供する担保もない状態では銀行はなかなか資金を融通しません。多くの場合、初期投資分は自己資金で用意することになります。

 もし、面白いアプリについてのアイデアがあり、1000万円を自分で用意することができる場合には、資本金1000万円の会社を自分で出資して設立することになります。1株あたりの額面が5万円の場合には、この起業家は200株の株式と引き換えに1000万円を会社に提供し、自身が社長となるわけです。

 このケースでは、自分が社長となっているだけで、株式と引き換えにお金を出すという意味では、上場している大手企業の株を買うことと大差はありません。大手企業との最大の違いは、すぐに倒産するリスクがあるという点だけです。ちなみに、この時点で会社の価値(時価総額)は1000万円で、株価は5万円、創業者の資産額は5万円×200株で1000万円ということになります。

 起業家は、このお金を使ってエンジニアを雇って、開発を行ったり、販売ルートを確保することになります。ある程度、開発が進み、もっと資金を投入すれば、大規模に売れそうな見込みが立ってきたと仮定します。しかし、それを実現するには5億円の資金が必要です。ここで実施されるのが増資です。

 有望なベンチャー企業の場合には、ベンチャーキャピタルという専門の投資会社が増資を引き受け、資金を提供してくれます。これによって一気に成長が加速するわけです。

Copyright(C)Keiichi Kaya

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ベンチャーキャピタルによる資金提供はどのように実施されるのか?

 増資の際に重要となるのは、その会社の価値がいくらなのかです。
 ある投資会社は、そのアプリを見て、年間の売上高が10億円、利益が2億円の事業に成長すると予想しました。さらにその事業を継続していけば、売上高は15億円、20億円、30億円と成長し、それに応じて利益も4億円、6億円と増えていくことが期待されます(あくまで期待です)。

 とりあえず年間の利益が2億円は確実だとすると、毎年、2億円のフローを得られる可能性が高いわけですから、仮に10年先の利益まで織り込んでよいのだとすると、この会社の価値は2億円×10年で20億円と計算されます(実際の計算はもっと複雑ですが、基本的には上記のような形で企業価値が算定されます)。

 創業時点におけるこの会社の資産価値は1000万円でした。起業家が持つ株式の数は200株で、株価は5万円です。しかし、この投資家はこの会社の価値は20億円と算定しましたから、この段階で資産価値は200倍に膨れあがっています。創業者が持つ株価は5万円の200倍ですから、1株1000万円に値上がりしたわけです。

 投資家は、この値段で新株を引き受けて必要資金5億円を会社に払い込みますから、投資家が購入する株式の数は、5億円÷1000万円で50株となります。この増資が終了した段階で、この会社の株式は、起業家が200株、新しい投資家が50株の合計250株となっており、会社の時価総額は25億円(増資した5億円がプラスされる)になっています。
 このようにして、将来の期待が高い事業は、事業の価値を上げながら、外部から必要資金を調達することができるのです(上図を参照してください)。

 この時点では、起業家は自由に株を売ることができないケースがほとんどですが、数字上はすでに20億円の資産を手にしているのです(1株1000万円×起業家の持ち分200株)。さらに大きな時価総額になった時点で、不特定多数に株式を売買できるよう株式市場に上場します。この頃には、起業家が持つ株式の価値は100億円を超えているかもしれません。

お金持ちを科学する もくじ

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