経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. ビジネス

ロックギターの老舗、ギブソンの経営破綻が意味すること

 エレクトリック・ギター大手の米ギブソン・ブランズが経営破綻しました。背景にあるのは、ロック音楽の低迷と、打ち込みと呼ばれるコンピュータを活用した音作りの普及です。
 楽器製造というビジネスが成立しにくくなっているのは以前から指摘されていましたが、今後はその傾向に拍車がかかりそうです。

ロックギターの2大巨頭のひとつだった

 ロックの分野では、ギブソン社のレスポールというギターと、フェンダー社のストラトキャスターというギターが2大標準となっています。レスポールはその構造上、響きのある甘めの音が、ストラトキャスターはシャープな音が出ます。

 ミュージシャンによって好みがはっきりと分かれており、レスポールを演奏するギタリストとしては、レッド・ツェッペリンのジミー・ペイジ氏が有名です。日本のミュージシャンではB’zの松本孝弘氏がレスポールを愛用しています。エリック・クラプトン氏のようにどちらも使いこなすギタリストもいます。

 かつて、楽器製造のビジネスは大きな利益を生み出していましたが、ここ20年で環境は大きく変わりました。

 以前は、歌謡曲も含め、ポピュラーな楽曲の大半がロックをベースにしたものでした。しかし1990年代以降は、ソウルミュージックから派生した楽曲が増え、この分野はヒップホップという形でさらに進化を遂げました。ソウル系の楽曲ではギターはそれほど重視されませんし、ヒップホップに至っては、場合によっては楽器そのものを必要としません。

 また、本格的な音楽配信時代を迎え、一般的なポピューラ音楽も、ミュージシャンが演奏したものをスタジオで録音するのではなく、パソコンとデジタル音源を使って作り込んでいく、いわゆる「打ち込み」という手法が一般化してきました。つまり音楽のデジタル化と量産化です。

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楽器ビジネスの位置付けが変わってきた

 こうした時代においては、生楽器(厳密にはエレクリックギターは生楽器ではありませんがここでは生楽器とします)のビジネスは非常に厳しくなります。

 ギブソンは以前から経営危機が噂されていましたし、ライバルのフェンダー社も資金調達を目的にナスダックへの上場を計画したものの、上場は取り下げられました。

 結局ギブソン社は2018年5月1日、日本の民事再生法に相当する、米連邦破産法11条(いわゆるチャプターイレブン)の適用を申請し、事実上破綻しました。今後は新しいスポンサーの下、負債を整理し、不採算事業から撤退の上、楽器事業に専念する見通しです。

 レスポールには高いブランド力がありますから、楽器単体のビジネスとして持続させることはそれほど難しくないでしょう。しかしながら、楽器製造は、規模の大きな産業としては成り立ちにくくなっており、今後は、一部の利用者にターゲットを絞った嗜好品としてのビジネスにシフトせざるを得ないと考えられます。

 ちなみにクラシックピアノのトップ・ブランドであるスタインウェイ・アンド・サンズも、業績が伸び悩み、現在は、米著名投資家ジョン・ポールソン氏が運営するファンドに買収されています。

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