経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. 政治

トランプ政権の屋台骨、ティラーソン国務長官が電撃解任

 トランプ政権を支えるもっとも重要な閣僚の一人であったティラーソン国務長官が解任されました。トランプ大統領との意見の相違が理由と考えられます。閣僚の中でも国務長官は別格の存在であり、通常、国務長官を解任することはあり得ません。

 3月6日には、コーン国家経済会議(NEC)委員長が辞任を表明したばかりですが、主要閣僚が次々と辞めていくという状況ですから、これはかなりの異常事態と見てよいでしょう(コーン氏の辞任については「トランプ政権の経済政策を支えてきた、コーン委員長が電撃辞任」を参照してください)。

着実に国務長官としての職務をこなしていた

 ティラーソン氏は、石油メジャーの1つである、米エクソンモービルのCEO(最高経営責任者)から国務長官に転じました。政治の経験はありませんでしたが、石油メジャーのトップともなれば政治家顔負けの国際交渉が必要ですから、国務長官としての資質は十分に備えていました。

 実際、国務長官就任後は、着実に職務をこなしており、これが政権に対する安心感につながっていたことは間違いありません。しかしながら、周囲の期待通りに国務長官としての職務をこなしていたということは、従来の国際常識に従って行動していることに他なりません。これは、トランプ氏にとって許しがたいことだったようです。

 中東問題や北朝鮮問題など、外交上の課題でトランプ氏とティラーソン氏はことごとく意見が対立。ティラーソン氏は、奔放なトランプ氏にかなり嫌気が差していたらしく、非公式会合の場でトランプ氏を「バカ」呼ばわりしたことも表面化していました。

 トランプ氏は自分をバカにするティラーソン氏に激怒したと報じられており、一時、解任の噂が流れたことがありました。トランプ氏はこの時は解任を思いとどまりましたが、おそらく周囲が、国務長官というポストの重要性を考え、必死にトランプ氏を説得したものと推察されます。

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トランプ政権は極めて不安定な状態に

 しかしトランプ氏の腹の虫は収まらなかったようで、今回の北朝鮮との首脳会談をめぐる交渉ではティラーソン氏はほとんど蚊帳の外に置かれていました。首脳会談の時期などについてもティラーソン氏とトランプ氏は意見が対立しており、結局、トランプ氏が一方的に解任するという結果になりました。

 国務長官は米国の閣僚の中でも別格扱いとなっており、大統領不在の場合には、大統領の職務を継承できるポストのひとつです。コーン氏の辞任も衝撃的でしたが、国務長官の解任となるとさらにショックが大きいでしょう。

 後任の国務長官には、ポンペイオCIA長官が就任しますが、ポンペイオ氏は、保守強硬派でトランプ氏との相性は抜群といわれています。ティラーソン氏が解任された今、仮にトランプ氏が「暴走」した場合、トランプ氏を止めることができる人物は政権内にほとんど残っていません。

 政治の世界は、今後の展開を予想するのが難しい分野ですが、トランプ政権が極度に不安定化することは避けられないでしょう。特に北朝鮮問題は要注意です。

 独裁者で、常に身の危険がある北朝鮮の金正恩氏にとって、トランプ氏との首脳会談は、一世一代の賭けになる可能性があります。トランプ政権の先行きが不安視される状況では、会談そのものの行方も怪しくなってくるかもしれません。

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